IRRってなに?

IRR(内部収益率)は、主に企業の投資判断や不動産の投資判断の目安となる指標の1つです。その意味や活用方法、計算式などについて解説します。

IRRってなに?

IRRとは

IRRとは

IRRとは「Internal Rate Of Return」の略で、日本語で内部収益率のことを言います。これは投資に必要な支出額の現在価値と、投資により得られるキャッシュフローの現在価値の総和が等しくなるような割引率のことです。

割引率とは、将来のお金の価値を現在の価値に換算する(割り引く)ときの利率です。そして、現在価値とは「ある時点のお金の価値を、現時点でのお金の価値に置き換えたもの」を言います。早期に利益を獲得できる投資案件ほどIRRは高くなり、より収益率の高い投資であると判断されます。IRRはエクセルの関数で算出することができ、一定期間においての複利での利率を計算したり、定期的にキャッシュフローが発生する投資対象との時間的な概念を踏まえて、比較したりすることが可能です。

IRRのメリット/デメリット

IRRのメリット/デメリット

メリット

IRRのメリットは、時間の概念を含めて考えることができる点です。例えば、100万円を投資して10年後に一括で200万円が受け取れる投資と、毎年10万円ずつの収益を得られて10年後に100万円が受け取れる投資で比較してみましょう。
総額では同じ200万円ですが、時間的な概念を含めて比較すると前者のIRR(複利での利回り)は約7.18%です。これに対して後者は10%となり、後者の方がIRRは高くなり、時間的な概念を含めて考えれば後者の方が効率的な投資が可能と言えるでしょう。

デメリット

IRRは収益率という概念で計算を行うため、投資規模が考えられません。このことによって、IRRの値は低いけれどNPVが大きいという優れた投資先を見逃してしまう場合があります。なお、NPVとは「Net Present Value」のことで正味現在価値を意味し、以下の式で計算されます。

【計算式】PV(現在価値)-投資額

100万円を投資して、10年後に一括で200万円を受け取れるという例で考えてみましょう。複利での利率が7.18%で計算すると、

現在価値は100万円ということになります。
このとき、仮に7.18%以上のリターンを目指したい場合には、投資額100万円が1つの基準となります。投資額が100万円を上回るようであれば投資対象として不適格、100万円を下回るようであれば適格という判断となります。
IRRは小さくても現在価値を踏まえてNPVが大きい投資先もあるため、このような投資先を見逃さないよう注意が必要です。

また、収益の回収が速いほどIRRが高くなるため、早期に収益を受け取れるとIRRは高くても総合的な利益が小さくなる可能性もあります。例えば、長期投資が有利とされる理由には複利の効果があります。複利とは投資や預金等で得た収益を当初の元本にプラスして、運用して得られる利益のことです。長期の運用であるほど、単利での運用に比べて収益が大きくなります。

100万円を投資して10年後に200万円になる投資の場合、IRRは7.18%です。これ対して、100万円を投資して1年毎に定期的に7万1,800円を受け取ることができ、10年後に元本100万円が返ってくる投資の場合でもIRRは同じ7.18%ですが、資産は171万8,000円となります。このように、単利で定期的に受け取った場合と、複利で長期運用した場合においてもIRRが同じになるのです。するとIRRが大きくても、複利運用した場合のリターンよりも実際のリターンは小さいという場合もあります。

企業の事業への投資や不動産投資において、IRRやNPVを利用し投資判断することは有効な場合も少なくありません。しかし、個人投資家にとっては、IRRよりも総リターンを求めることの方が重要とも言えるでしょう。

IRRの計算

IRRの計算

IRRは、下記のような計算方法と計算式で算出されます。

【計算式】-C0+(C1/(1+r))+(C2/(1+r)²)+(C3/(1+4)³)・・・(Cn/(1+r)n乗)=0

このときC0は投資額、C1は1年目の収益、C2は2年目の収益、C3は3年目の収益、Cnはn年目の収益を表します。そして、この数式を満たす「r」がIRRです。例えば、先ほどの計算例で100万円を投資し、毎年7万1,800円ずつ受け取れる場合には以下のようになります。

-100万円+(7万1,800円÷(1+r))+(7万1,800円÷(1+r)²)+(7万1,800円÷(1+r)³)+(7万1,800円÷(1+r)⁴)+((7万1,800円)÷(1+r)⁵)・・・・・((7万1,800円+100万円)÷(1+r)¹⁰=0

そして、IRRは7.18%です。一方、10年後に200万円を受け取れる場合には以下のように計算されます。

-100万円+((200万円÷(1+r)¹⁰)=約7.18%

実際の収益額は大きくなっても、IRRが同じになったことが分かるでしょう。単純な収益自体は大きくとも、収益の回収が遅いとこのようにIRRが低くなるケースもあります。

NPVのメリット/デメリット

NPVのメリット/デメリット

NPVとは「Net Present Value」の略です。正味現在価値を意味し、以下の式で計算されます。

【計算式】PV(現在価値)-投資額

NPVがIRRに対して、どのようなメリット・デメリットがあるかを解説します。

メリット

投資対象に対する現在価値という、観点から投資が的確かどうかの判断することができる点がNPVのメリットです。投資効率のみを求めた金額度外視の考え方や、投資回収に必要な期間で考える方法など、他の投資判断基準と比較したときにもメリットとなるでしょう。

収益額から計算するため、効率的な投資案件の過大評価を避けることも可能です。投資の価値に重きを置いて判断することができ、同額の投資回収にかかる年収を計算するより、NPV法は投資すべきかどうか判断しやすいと考えられています。また、IRRがパーセントでの単位に対し、NPVは現在価値でどの程度の利益を得られるかが分かるので、IRRに比べ分かりやすいという点もメリットです。

デメリット

デメリットとして挙げられるのが、割引率の設定が必要なことです。割引率の設定を誤ると現在価値が大きく異なるため、NPVも大きく異なります。どの程度の割引率が最適かは分からないため、それを仮定として計算することが必要です。その際には投資のリスクなどを考慮するのですが、割引率1つを取っても数値が少し変わるだけでNPVの値も大きく変わるので、不安定な指標と言えます。

また、NPVの計算の際に将来的なデータを用いますが、そのデータも妥当性があるかどうかも重要です。このように、デメリットとして算出されるNPVの値の不確実性が挙げられ、長期的な計画が排除されやすいという特徴があります。

NPVとIRRには、いずれもメリットと共にデメリットがあります。双方の特徴を踏まえ、IRRは収益率の高さを判断する場合の指標、NPVは収益額の高さを判断する場合の指標として選ぶと良いとされています。

IRRを用いて投資先を判断する

IRRを用いて投資先を判断する

IRRは投資対象の収益率を比較する際に活用できます。例えば、不動産投資と株式投資の収益率を比較したり、キャッシュフローが発生するタイミングが異なる投資先のものを比較したりする場合、時間的な概念を踏まえるとどちらが効率的か判断しにくいことがあります。そのような投資先を比較し、判断する際にIRRで比較すると良いでしょう。

また、投資信託を選ぶ際においても分配金を定期的に受け取るタイプと、受け取らずに再投資できるタイプがあります。単純な収益のみで見れば、受け取らず再投資されたタイプを選ぶ方が複利効果で収益は大きくなり、長期投資のメリットを受けることが可能です。そのため、特に長期の資産形成や資産運用においては、分配金を受け取らずに再投資される方が良いとされています。しかし、時間的な概念を踏まえて考えると、定期的に分配金を受け取っても、受け取らずに複利運用されても変わらないとも言えるでしょう。

まとめ

まとめ

IRRとは何なのか、NPVとの違いや計算方法なども踏まえて解説しました。投資する際には「いくら投資して、いくら戻ってくるか」と考えることが一般的です。しかし、本記事で解説したように、時間的な概念を踏まえた考え方も大切になります。特に、事業への投資や不動産は投資期間が長期にわたるケースが多く、キャッシュフローも年度によって変動するため、IRRは相性が良いと言えるでしょう。

また、IRRは自分で計算しようとすると計算が複雑になってしまいますが、エクセルの関数を用いると手軽に計算することが可能です。投資額に対して受け取る収益率の効率のみでなく、積立金に対して受け取れる金額の運用利回りを計算する際にも用いることもできます。例えば、貯蓄系保険の積立額に対する受取額等もIRRで評価し、他の資産形成方法とどちらが効率的を計算する判断材料となるでしょう。仕組みを理解することでこのように少し応用した使い方もできますので、ここで取り上げた内容を参考にエクセルを利用しながら活用してみてください。

監修者プロフィール

小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)
日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表

<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。