インサイダー取引とは?

インサイダー取引とは、株式投資において刑事罰にもなる重大な犯罪行為のことです。ここでは、インサイダーになる場合やペナルティなど詳しく解説します。

インサイダー取引とは?

インサイダー取引とは

インサイダー取引とは

上場企業の役員や社員、その知人や家族など関係者などの内部者が、公表されていない株価を左右するような重要な未公開情報を利用して、自社の株などを売買することをインサイダー取引と言います。

インサイダー取引の定義

日本取引所グループによるインサイダー取引の定義は、上場企業の関係者などがその職務や地位により知り得た、投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して自社株などを売買することで、自己の利益を図ろうとするものです。

例えば、上場企業の社員が会社の利益が向上し株価の上昇が見込まれるような内部情報を得て、株価が上がることを予測し、その情報が公開される前に株式を購入するようなことを言います。または、上場企業の社員が、会社の損失になるような内部情報を得て、株価下落することを予測し空売り(信用取引の売り)を行った場合などもインサイダー取引にあたります。

株式の取引において公平性が失われる

インサイダー取引が行われると、株式の取引において公平性が失われてしまいます。そのため、投資家保護・金融商品への信頼性確保のために規制されており、取引に不正がないか証券取引など監視委員会が日常的に市場を監視しています。なお、インサイダー取引が発覚した場合には課徴金が科せられ、加えて刑事罰が科せられる場合もあります。

上場企業の社員でなくとも、上場企業に勤務する友人や家族などから聞いた情報や偶然知った情報であっても、それによって株式の取引で利益を得ようとした場合にはインサイダー取引に該当することがありますので注意が必要です。

ただし、従業員持株会のように自社株を定期的に購入している場合など、一定の計画に従い毎月行う定時定額の買付(各役員・従業員の1回あたりの拠出額が100万円未満)は、インサイダーにはあたりません。情報を知りつつ拠出額を増やしたり新規に持株会に加入したりすれば、インサイダー取引となります。

インサイダー取引に違反した場合の罰則

インサイダー取引に違反した場合の罰則

インサイダー取引は金融商品取引法第166条で禁止されており、違反した場合には下記の罰則が科せられます。

・5年以下の「懲役」、もしくは500万円以下の「罰金」、またはその両方が課せられる

・法人の業務・財産に関する場合については5億円以下の「罰金」、「財産の没収」

・財産の没収 

(例:購入額2,000万円、売却額3,000万円、不正利益1,000万円の場合、元手の購入金額含む3,000万円を没収される)

・「課徴金」として利益相当額を納付:実際の売却(購入)株価と、情報公表後2週間の最高(安)値の差額

このように課徴金を科せられ、刑事罰の対象になることもあります。インサイダー取引の多くは業務で知った情報をもとに株式売買をしているので、その調査を目的として会社内や取引先にも捜査が行われます。そのため、インサイダー取引の事実は勤務先などに伝わることも予想されます。これを理由に解雇される可能性も高く、刑事罰や金銭的な罰則のみでなく厳しい社会的制裁を受けることになります。

インサイダー情報とは

インサイダー情報とは

インサイダー情報(重要事実)とは、株価を左右するような情報のことです。金融商品取引法で「重要事実」は以下のように大きく3つに分類され、その他のことがバスケット条項として区分されています。

1)決定事項

合併、業務提携、解散、株式または新株予約権の発行、新製品・新技術開発など、会社自らが決定したことなど

2)発生事項

自然災害や取引先との取引停止など、会社の判断ではない要因で発生した事項に関する情報

3)決算情報

会社の業績予想などに関する情報

※その他、バスケット条項

上記3つに区分されないが、投資者の投資判断に著しく影響を与える情報のことを言います。

公表とは?

インサイダー情報は、「公表」されればインサイダー情報ではなくなるため株式の売買を行うことが可能です。なお、「公表」とは下記のいずれかの定義にあてはまることになります。

・2以上の報道機関に対して公開され、12時間経過したこと

・東証が運営するTDnetなどによる公衆の縦覧に供されたこと

・有価証券届出書などに記載し、公衆の縦覧に供されたこと

つまりインサイダー情報でなくなるには、他の投資家が同等に情報を得られる立場になることであり、公表されていない重要な情報を知った者だけが有利にならないように規制されています。

インサイダー取引の対象者

インサイダー取引の対象者

インサイダー取引の対象者は、大きく「会社関係者」と「情報受領者」に分けられます。会社関係者とは役員や従業員だけでなく、パートやアルバイト、派遣社員、グループ会社の役職員、退職後1年以内の元役職員も含みます。法令に基づく権限を有する公務員や契約を締結している取引先の役職員、会計監査をする会計士、顧問弁護士、増資の際の元引受証券会社、3%以上の大株主なども対象です。

例えば、上場企業でアルバイトをしている人が、会社の利益に大きな影響を及ぼす事実を休憩室などで社員たちの会話から知り、それが公表される前に株式を取引した場合にもインサイダー取引になってしまいます。既に退職した場合であっても、1年以内に取引を行った場合にはインサイダーにあたるため要注意です。インサイダー取引が禁止されており、犯罪行為であることを自覚せずに行った場合でも、罰則の対象となりますので注意しましょう。

情報受領者とは?

情報受領者とは会社関係者を通じて直接情報を知った人のことです。会社の従業員がこっそり知った情報を家族や恋人、友人などに話し、それを聞いた人が情報公表前に売買をすればインサイダー取引となります。

例えば、上場企業に勤める友人から「プロジェクトが成功し大幅な利益アップが見込めるから今のうちに株を買っておいた方が良いぞ」と、何気ない一言で取引したとしましょう。この場合も、インサイダー取引の条件に該当することがあります。

インサイダー取引の事例

インサイダー取引の事例

インサイダー取引の事例をご紹介しますので、以下を参考にしてください。

村上ファンド事件

インサイダー取引で有名な事例として、2006年に起きた「村上ファンド事件」があります。村上ファンド事件とは、村上ファンドがニッポン放送株でインサイダー取引をしていたとして、村上ファンド代表の村上世彰が逮捕された事件のことです。

この事件の経緯は、ライブドアがニッポン放送株を大量に購入する予定があることを知る立場にありながら、その情報を利用してニッポン放送の株を大量に買い付けて多額の利益を得たというものです。村上氏はライブドア代表取締役の堀江貴文氏から、ニッポン放送株の公開買付の予定であるという情報を得ていました。しかし、ライブドアがニッポン放送株の公開買付を行うことが資金的に難しいと考え、実現すると予想していなかったのです。

その後、ライブドアは村上氏の予想に反し多額の資金を調達することに成功し、ニッポン放送の株式の公開買付を行いました。そのため、事前に情報を得ていた村上氏の行為はインサイダー取引として、東京地検特捜部により村上氏は証券取引法違反(インサイダー取引)容疑で逮捕されたのです。

村上氏が情報を得た時点ではライブドアが資金調達の目途が立っていない状況であり、実現する可能性は低いと考えインサイダー取引ではないと主張していました。しかし、最高裁で懲役2年、執行猶予3年、罰金300万円、追徴金約11億4900万円が確定しました。村上氏のように株式投資を熟知し、「インサイダーにはあたらない」「現状では実現不可能」と考えられる状況での情報であっても、結果的にそれが実現した場合にはインサイダー取引になることがあります。

一般社員が製品データ改ざんの事実を知り、インサイダー取引に該当した例

上場会社A社の取引先B社の社員である違反行為者Cは、B社の他の社員がA社との売買契約の履行の情報を知りました。A社が製造、販売する製品の強度試験の検査数値改ざんなどが確認された旨の事実を知ったCは、当該事実の公表前にA社株式を売り付けました。

A社が製造・販売する製品について強度試験の検査数値の改ざん及び板厚の改ざんが確認され、納入先に対する賠償問題や指名停止の処分などが発生することによって、A社の財務面に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、改ざんという行為によってA社の信用低下につながり、同社の今後の業務展開に重大な支障を生じさせると共に市場における信頼性を損なう可能性がありました。

そのため、一般の投資家がこの事実を知った場合、A社株式について当然に「売り」の判断を行うと認められることから、このことは「当該上場会社などの運営、業務または財産に関する重要な事実」で「投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」とされCの行為はインサイダー取引とされたのです。なお、A社の株価は、本件重要事実の公表翌日にストップ安となっています。

このように、一般の社員でも業務上で知った情報によって利益を得ようと取引した場合には、インサイダー取引にあたる可能性があります。

※証券取引委員会 金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~ 参考考事例 9(平成 21 年 6 月「金融商品取引法における課徴金事例集」事例 28)より

※参考

インサイダー取引の事例については証券取引委員会のホームページより確認できます。

過去の事例を読んでおくことで、どのような行為がインサイダー取引に該当するかがわかります。自身がインサイダー取引を行ってしまわないよう、事前情報として知っておくと良いでしょう。

まとめ

まとめ

インサイダー取引とはどのようなことか、どのようなものがインサイダーにあたるのか、どのようなペナルティがあるのかについて、事例を踏まえてご説明しました。インサイダー取引は上場企業の社員でなくても、その社員との会話の中で知った業務に関する情報によって利益を得ようと取引を行った場合にも該当することがあります。そのため、知らずに株式投資を行っていた結果、いつのまにか犯罪行為に至ってしまうこともあります。

例えば、飲食店などで仕事の話題を話していると、インサイダー情報にあたる重要な事実であることを知らずに漏らしてしまうこともあります。インサイダー取引に関する認識の甘さや社員への教育不足がそういった情報漏えいを起こし、関係者が犯罪であることを知らずにインサイダー取引を行ってしまうことがあるため、上場企業は特に社員に対する教育を徹底することが必要です。

また、インサイダー取引は禁固刑も有り得る犯罪行為であり、職場に知られて懲戒解雇になってしまうケースもあります。インサイダー取引を行ってしまったことで、ご自身や家族、関係者の人生を狂わせてしまう可能性もあることを認識しておきましょう。

上場企業の社員は自社株を取引するにあたり、将来的に成長する期待が持てる企業であるのか、もしくは衰退が懸念されるのであるか、会社の内部で常日頃から商品の品質や将来性、顧客に対する会社の姿勢、社員に対する姿勢など、定性的な情報を得るために極めて有利な立場であると言えます。株式投資の本来の考え方に立ち戻れば、しっかり将来性を見極めて取引することは可能なはずです。

例えば、企業にとってマイナスな情報が公開されて株価が一時的に下落した場合、将来的な会社の成長が予想できるのであれば、下落したタイミングで購入することで成長が期待できる株式を安値で購入できます。目先の利益のために犯罪行為をせずとも、有利な情報を得られて正当に長期的な利益を狙える立場ですので、これをうまく活用するようにしてください。インサイダー取引について知り、重大な犯罪行為であることを十分に認識し、取引を行っていきましょう。

監修者プロフィール

小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)
日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表

<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。