優先株とは?

株式の種類には「優先株」と呼ばれる株式があります。この記事では優先株について解説します。

優先株とは?

優先株とは?

優先株とは?②

優先株とは他の株式に比べて配当を多く受け取ることができるなど、優先的に権利が付与されている株式のことです。一般的な株式は「普通株」、普通株よりも権利が劣る株式は「劣後株」と呼ばれています。
優先株について日本においては、金融機関の不良債権回収問題を解決するため、1999年に公的資金の注入手段として用いられたことで知られることになりました。一般的に優先株が上場されるケースは少なく、金融機関などが引き受ける場合が多く、個人投資家が購入できる場合は限られています。

優先株の特徴

優先株の大きな特徴は、普通株より多くの配当を受け取れる点です。配当とは、会社が年間で出した利益の一部を株主に還元する仕組みのことであり、年1回もしくは2回受け取ることができます。どの程度受け取れるかは発行元によって異なりますが、優先株を保有することによる優先配当は、普通株の配当よりも多く受け取ることが可能です。

また、企業の解散時には優先的に残余財産を受け取ることもできます。企業が解散する際には残った資産を株主で分け合うことになりますが、その際の財産を優先的に受けることが可能となります。そのため、普通株よりも損失が限定されることが一般的です。

一方で、一般的には株主総会の議決権が制限されます。発行する企業側の立場からは、株主の議決権を制限することで経営に干渉されずに資金を調達し、自己資本を強化できることがメリットと言えるでしょう。特にベンチャー企業では、資金調達の手段として優先株を活用することがよくあります。

優先株は、普通株より株価が高く設定されていることが一般的です。例えば、伊藤園の優先株(証券コード:25935)のように、同じ伊藤園の普通株(証券コード:2593)よりも大幅に安く購入できる場合もあります。配当も普通株の1.25倍と高く、価格も安いため配当利回りが高いものもあります。また、上場する際や吸収合併される、あるいは完全子会社になる場合など、優先株式から普通株式に転換する場合もあります。

優先株の種類

優先株の種類

参加型優先株式

「完全参加型優先株式」とも呼ばれており、優先配当が支払われた後に普通株の配当も受け取ることができます。そのため、参加型の優先株では2重で配当を受け取ることができます。
また、普通株への配当がない場合であっても、優先株は優先配当として配当が支払われることがあります。さらに、会社を清算する際には、普通株主に対して優先的に残余財産の分配を受けられる権利があります。その他にも、普通株主に分配した後、さらに残った財産についても分配を受け取れる場合もあるでしょう。

また、参加型優先株式は非参加型に比べると、取得コストが高いのが一般的です。ただし、優先株の中ではもっとも多く分配が発生する種類なので、長期的に高い配当を受けたい投資家にとっては魅力的な株式と言えるでしょう。

非参加型優先株式

優先配当は受け取れるものの、普通株の分の配当を受け取れないタイプの優先株です。参加型優先株は普通株の配当も受け取れますが、非参加型は優先配当のみとなります。また、会社清算時の残余財産の分配は優先的に残余財産を受けられるものの、普通株主に分配後に残った財産があったとしても、非参加型優先株式の場合は分配を受けることはできません。参加型株式の方が有利と言えるため、参加型に比べると非参加型の方が取得コストは低くなっています。

制限参加型優先株式

優先配当額が支払われた後、「一定の倍率まで」という制限つきで普通株の分の配当が支払われる優先株のことを言います。普通株の配当の上限額は優先配当と同額のため、完全参加型優先株式に比べると受け取れる配当金は少なくなっています。

また、制限参加型優先株は、優先配当に加えて普通配当の一部を受け取れる優先株でもあります。こうした特徴から、参加型優先株式と非参加型優先株式の中間のようなものだと言えるでしょう。普通配当の受け取りの制限は、普通配当の額に対して一定の比率で設定したり、上限額を決めたりしています。

累積型と非累積型

優先株の他の分類方法として、累積型と非累積型があります。累積型優先株は、満額の優先配当を受け取れなかった場合に、その分を翌年に繰り越し、「本来の優先配当枠+前年配当を受けることができなかった優先配当枠」分の優先配当を受けることができる優先株です。

非累積型優先株は、そのような優先配当枠の繰り越しができない優先株となります。優先株式の株主にとっては、累積型の方がより有利であり、非累積型の方がより不利であるということです。

投資家が優先株式を取得するメリット/デメリット

投資家が優先株式を取得するメリット/デメリット

メリット

優先株式の大きなメリットは、配当金を2重に受け取れることです。参加型優先株式なら優先株式から受けられる配当に加え、普通配当も受け取ることができます。

優先配当は、普通配当より優先して配当を得られるので、普通配当が受けられない場合でも、優先株なら配当を受けられることも安定して利益が得られるメリットがあります。もちろん、株主優待を受けることも可能です。また、投資先の企業が倒産しても優先的に資産を受け取れるため、普通株より倒産時の損失が少なくなることも、投資家のメリットと言えるでしょう。

デメリット

しかし、流動性が低く売買が難しいことはデメリットにもなります。優先株は市場で取引できる銘柄がごく少数であり、上場していない場合は、いつでも市場で売買することができないので、流動性が低いと言えるでしょう。一方で、利益の減少やネガティブなニュースに対する株価の大きな下落が少ないとも言えます。

また、上場されている銘柄は多くありません。上場されていない場合は経営が好調でも株価が大きく上昇することはあまり期待できないため、売買によって利益を得ることが難しいでしょう。特に、短期間で売買を繰り返す投資家には不向きと言えますし、基本的に議決権の制限を受けることで経営に介入できないなどのデメリットもあります。

投資家にとっては、普通株式への投資と比べてローリスク・ローリターンであり、社債などへの投資と比べるとハイリスク・ハイリターンと言えそうです。また、短期保有には不向きで、高い配当を狙って長期的に保有することに向いていると言えるでしょう。

企業側のメリット/デメリット

企業側のメリット/デメリット

メリット

企業にとって優先株は、資金調達手段として活用しやすく、議決権を分散させずに資金調達できるというメリットがあります。株式は企業側にとって返済する必要のない資金なので、自己資本を強化して経営を安定させることが可能です。

普通株を発行すれば議決権が分散してしまい、経営に干渉されやすくなります。そのため、経営陣の思うような経営ができなくなる可能性があり、さらに買収される可能性も高くなるでしょう。しかし、優先株の場合、議決権を制限することで株式を発行して資金を調達しても、議決権を分散させることなく資金を調達できます。
そのため、経営に干渉されず、買収される可能性を低減させながら株式を発行して資金調達がしやすくなります。つまり、経営安定にも繋がっていきます。また、一般的には普通株よりも価格が高くなっているため、より多くの資金を調達しやすいというメリットもあります。

デメリット

発行に手間がかかるという点はデメリットです。優先株を発行するためには株主総会に加えて「種類株式総会」の開催が必要になるなど、普通株に比べ発行に手間がかかります。さらに、これらのデメリットが影響し、国内市場ではあまり浸透していません。そのため、一般投資家向けに発行しても買い手が見つからない可能性が考えられます。

また、資金繰りが厳しい企業というイメージを持たれやすいことも、企業側にとっては注意すべき点と言えそうです。先に述べたように、銀行の不良債権問題の処理のため、国が優先株を購入することで資金注入した経緯があることなどから、このようなイメージを持たれやすいことを覚えておきましょう。

優先株の例

優先株の例

日本で上場されている優先株として、伊藤園(証券コード:25935)を具体例としてご紹介します。

伊藤園

(注1)議決権が発生する場合があります。
(注2)小数第一位を切り上げ、ただし15円を下限とします。また普通株式への配当が無配の場合でも、優先株式に対して1株当たり15円が優先配当として支払われます。
(注3)累積未払配当がある場合は、普通株式に先立って優先株主に不足分が支払われます。
(注4)一定の事象により当社が普通株式を対価として、1:1の比率で優先株式を取得することがあります。

【一定の事象】

  1. 当社が消滅会社となる合併、完全子会社となる株式交換、株式移転(当社単独によるものを除きます)。
  2. 当社普通株式に対する公開買付により公開買付者の株券等所有割合が50%超となった場合。
  3. 当社優先株式が上場廃止となった場合。

▼伊藤園ホームページより引用
https://www.itoen.co.jp/finance_ir/preferred_stocks/

普通株と比べて、優先配当は1.25倍と高い配当を支払っていることが記載され、最低でも1株当たり15円を下限としていることがわかるでしょう。また、優先配当分の未払いが累積することなどが記載されています。残余財産の分与権については普通株式と同様となっており、一般的な優先株とは異なりますが、累積未払い配当がある場合は優先的に受け取れる点はメリットです。
議決権は原則としてないことも記載されていますが、議決権に対しあまり必要と考えていない投資家にとって、高い配当を得られることは普通株より有利と言えるのではないでしょうか。

上記の例では、残余財産の分与について普通株と同様とあります。しかし、上場されているため流動性も高く、普通株よりも安く購入が可能です。そのため配当利回りも大きく、議決権が不要と考える投資家であれば大きなメリットとなるでしょう。このように、条件が発行元によって異なります。購入する場合にはよく確認し、比較して検討することが重要です。

まとめ

まとめ

優先株とは何か、その種類やメリット、デメリットなどについて解説しました。上場企業での優先株は、ここで例に取り上げた伊藤園(証券コード:25935)など、日本では銘柄がごく限定的です。しかし、アメリカやヨーロッパでは広く浸透しており、日本でも今後は広まっていくと考えられます。

また、伊藤園(証券コード:25935)のように、普通株と比べて有利な条件で発行されている場合も少なくありません。今後、優先株の上場が増えてくれば、高いリターンを得るチャンスが広がりやすくなるでしょう。優先株と普通株の違いを知っておくことは、投資家にとっては大きなポイントです。優先株への投資を検討しながら、いずれ上場する銘柄が増えてきた場合のために、知識として覚えておくと良いでしょう。

出資を募り事業を拡大していきたいと考えている経営者にとっては、経営に干渉されず出資を募れる有効な方法でもあります。ただし、日本では銀行の不良債権処理の手段のように、経営難を救済するために発行しているようなイメージが強いのが現状です。

優先株を発行することで、「経営が傾いていると判断をされてしまう」ケースがあることも、注意が必要です。また、議決権に関する制限を設けておかなければ、自分の思い通りの経営がスムーズにできない可能性もあります。優先株式のメリットとデメリットを理解した上で、賢く資金調達のために利用しましょう。

監修者プロフィール

小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)
日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表

<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。