ヘルスケアDXが1兆円市場の扉を開く(野村アナリストの業界展望)

 

2021年6月16日

 

6/15 20:30 FINTOS!編集部

規制緩和に新型コロナがDX化を後押し

 ヘルスケア領域においてICT(情報通信技術)を活用し効率化、新サービス開発を推進するヘルスケアDX(デジタルトランスフォーメーション)は、逼迫する医療財政や高齢化対策の重要性の高まりや、医療ICT 投資を促す政策支援を追い風に、事業化や規制緩和が進んできた。2020年は新型コロナウイルス(以下コロナ)感染拡大によりオンライン診療が特例措置で解禁(恒久化の議論中)、臨床試験やマーケティング、ビッグデータ利活用など、多様なDX サービスが台頭し始めた。

 

 ヘルスケアDX が取り組むのは、医療介護保険市場54兆円の効率化である。ヘルスケアDX で顕在化が見込まれる潜在市場として、オンライン診療(医療相談)、医薬品や医療機器の研究開発及びマーケティング支援、臨床試験受託、医療機関経営支援などが挙げられる。野村ではマーケティング支援やオンライン診療関連の成長余地が大きいと見ており、20年で1,500億円程度と見られるDX 関連市場規模は、30年頃には1兆円を超えると予想する。

 ヘルスケアDX は、18年5月の次世代医療基盤法の施行や、18年と20年の診療報酬改定でのオンライン診療の対象拡大を背景に事業化が進められてきた。これにコロナ禍で非接触対応のニーズの高まりもあり、不可逆的に浸透することとなった。ヘルスケアDX 推進の転換点は、16年11月の未来投資会議で医療・介護分野のICT工程表が示されたことに遡る。それまでは電子カルテの普及が緩やかで、自治体単位での限定的な情報ネットワークが、地域間での連携に至ることはまれであった。

 

 上述の次世代医療基盤法では、医療情報の匿名加工や患者が後からも情報提供を拒否できるオプトアウト方式によるデータ利活用の道が開けた。データクレンジング(不正確なデータなどを検出して修正)の要件が厳格なため、健保組合や医療機関が医療データを持っていても、二次利用(研究機関や行政、企業によるデータ利活用)はJMDCやメディカル・データ・ビジョンのように限られた事業者が行っている。また、オンライン診療の特例措置(初診対応含む)を恒久化するかどうかについて、6月頃には方向性が示される予定である。

ヘルスケアDX の3 つの推進力

 ヘルスケアDX が世の中に広く浸透するためには、医師や医療関連企業の参加が不可欠である。医師(医療従事者)が集うプラットフォームは多様なサービスのDX 化をもたらすと考える。DX 化をけん引する推進力として、①医師の会員基盤に医療ヘルスケア関連サービスを搭載するプラットフォーマー、②ビッグデータとAI(人工知能)、③未来志向のヘルスケアを挙げる。

 

 総合型プラットフォーマーとして、エムスリーとメドピアが挙げられる。エムスリーの運営するm3.comでは、医師会員基盤の上に、医薬品マーケティングから治験、キャリアなどあらゆる医療関連の手続きや工程が展開されている。医師会員30万人が登録するm3.com上で、マーケティング、治験など多様な事業を展開し、複数事業によるクロスセル(相乗)効果を発現している。メドピアは国内12万人以上の医師会員基盤を有しており、臨床医の生の声を共有するSNS 的な事業を通じて、集合知マネジメントというエムスリーとは重複しない領域で強みを発揮している。医師目線のプラットフォームを強みに、患者向けオンライン医療相談、管理栄養士サポートなどマス市場へもリーチを広げている。

 医療ビッグデータは、レセプトデータ分析、治験支援等で利活用が進んでいる。データ利活用は、重症化予防や医療関連業務効率化に資するだろう。JMDC は豊富なデータ量、AI 技術を生かし、製薬、生保、医療機関、自治体向けサービスでビッグデータ市場創造が進んでいる。また、メディカル・データ・ビジョンは、医療機関と患者がデータ共有することでデータ利活用の範囲を拡張する取組が進んでいる。臨床試験DX、国産AIを用いた新医療機器の台頭などにも注目できる。

 

 オンライン診療や地域包括ケアシステムによる地域の病院、診療所、介護事業所や在宅ケアまでの情報管理の一元化の取り組みが加速し、患者のPHR(個人健康情報)をオンライン診療やAI 診断、問診などで活用し、自治体の感染症対策や保険財政健全化の一助とする取組みが進もう。20年6月にはAIホスピタルによる高度診断・治療システムの社会実装プロジェクトが開始された。CYBERDYNE のサイバニクス技術(人・ロボット・AI・情報系の融合複合技術)は、ロボットスーツHAL が患者個別プログラムで脳神経・身体系機能向上をもたらし、非接触搬送、清掃ロボは人口減少社会、コロナ禍での社会インフラとなりうると考える。

 

(繁村 京一郎)

 

※野村週報2021年6月14日号「産業界」より

提供元:野村證券 / FINTOS!作成資料

この記事は「FINTOS!」で2021年6月15日に公開されたものです。

元記事:ヘルスケアDXが1兆円市場の扉を開く(野村アナリストの業界展望)

 

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