より効率の良い投資を行うために知っておくと有利な「シャープレシオ」について、詳しく解説します。
シャープレシオとは
シャープレシオは投資する資産の組み合わせ、商品のリスク(投資においては振れ幅を意味する)に対するリターン(一定期間での平均収益率)の度合いを比較するために用いられる指標です。投資配分や具体的に投資信託の商品をどの程度の割合で組み合わせて購入したり、株はどの銘柄で何株ほど持つかといった分散投資のリスク・リターンを評価したりするために用います。
一般的に投資は、高いリターンを求めれば高いリスクが伴うものです。しかし、異なる値動きをする株式や資産を組み合わせることにより、リスクを低減させながら高いリターンを狙っていくことも可能になります。例えば、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のホームページに下図「アイスクリーム会社とおでん会社の株式」が掲載されています。こちらを見るとイメージしやすいかもしれません。
アイスクリームは通常、夏場の方が売れて冬場には売れ行きが下がります。反対におでんは、夏場より冬場の方が売れ行きが上がる傾向にあります。これを株式に置き換えるなら、逆の値動きをする株式を組み合わせることで、リスクが低減するということが言えます。つまり、複数の資産を組み合わせることでリスクを低減させ、リターンを安定させることができます。
なお、投資におけるリスクは「危険性」という意味ではありません。「振れ幅」「バラツキ」という意味で用いられ、統計学的には「標準偏差」と言います。平均収益率に対して実績値が上にも下にも大きくブレているとリスクが大きい、反対に平均収益率に対して実績値のブレが小さいとリスクが小さいことを表します。
ポートフォリオとアセットアロケーション
どの商品をどの程度組み合わせるかを「ポートフォリオ」と呼び、もともとの語源は「紙ばさみ」や「書類入れ」という意味になります。欧米では紙ばさみに資産の明細書を保管していたようですが、この言葉に由来しているようです。
ポートフォリオが具体的な商品の詳細な組み合わせを意味するのに対し、大まかな資産配分のことを意味するのが「アセットアロケーション」です。投資家の求めるリスクと許容するリターンにあわせてアセットアロケーションを組み合わせ、それに合った商品の組み合わせがポートフォリオということになります。
シャープレシオはリスクに対するリターンの度合いを表す言葉
「シャープレシオ」は、そのポートフォリオのリスクに対するリターンの度合いを表す言葉です。シャープレシオは、ポートフォリオが安全資産(リスクがゼロと仮定した資産)から得られる収益(リターン)をどの位上回ったのか、比較できるようにした指標になっています。
なお、安全資産の収益とは主に国債や無担保コールレートなど、リスクがゼロと仮定した金融商品の収益率などを用いて計算します。ノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・シャープが考案し、異なる投資対象を比較する際に同じリスクならどちらのリターンが高いかを考える時に役立ち、ポートフォリオファンドの運用成績を比較する場合に用いられるものです。
シャープレシオの計算方法
シャープレシオは、以下のように計算されます。
- シャープレシオ=(ポートフォリオの収益率ー安全資産利子率)÷リスク(ポートフォリオの収益率の標準偏差)
リターンのうち安全資産を上回った部分をリターンの変動度合いを示す標準偏差で割ることで、「同じリターンでもリスクが低いファンド」や「リスクが同じでもリターンが高いファンド」などのリスク・リターンが異なる商品の比較が可能です。
例えば、リターンが7%でリスクが18%のポートフォリオA、リターンが5%でリスクが10%のポートフォリオBがあった場合、ポートフォリオAとBのシャープレシオを比較してみましょう。なお、無リスク資産の収益率は0.1%とします。
- Aの計算式:(7%-0.1%)÷18%≒0.38(少数第3位を四捨五入)
- Bの計算式:(5%-0.1%)÷10%=0.49
この場合、Bの方がシャープレシオは高いため、リスクに対するリターンの度合いはBの方が効率的です。できるだけリスクを抑えながら、リターンを得たい投資家にとって、Bの方を選ぶことが効率的と言えるでしょう。
また、長期の資産形成や資産運用においては、国内外の株式や債券などを組み合わせてポートフォリオを組むことがセオリーです。どのような配分にしたら良いか、また、1つの商品を選ぶだけでポートフォリオがあらかじめ組まれているバランス型ファンドを選ぶこともできます。しかし、どの商品をどの程度組み合わせるべきか、どのバランス型ファンドを選んだ方が良いのかについて迷うこともあるでしょう。こうした際、リスク・リターンの度合いはどちらが高いのかなどを比較する際にも、シャープレシオは有効です。
バランス型ファンドのポートフォリオ
例えば、下記の表のようなバランス型ファンド同士を比較するとしましょう。ベンチマークとなる指標の過去20年(2001年10月末~2021年11月末)のリスク、リターンより試算した結果が下記のようになります。
- 4資産均等分散型の内訳:国内株式、国内債券、先進国株式、先進国債券(基本4資産と呼ぶ)にそれぞれ25%ずつ
- 8資産均等分散型の内訳:国内株式、国内債券、先進国株式、先進国債券、新興国株式、新興国債券、国内REIT、先進国REITにそれぞれ12.5%ずつ
バランス型ファンドのポートフォリオとして、このような配分で組み合わされている商品もあります。基本4資産の組み合わせは代表的な資産の組み合わせで、長期の資産運用や資産形成においてはこの4つの資産を中心に組み合わせてリスクをコントロールすることが一般的です。
新興国の株式や債券、国内や先進国のREITも組み合わせた場合
これに対して、新興国の株式や債券、国内や先進国のREIT(不動産投資信託)も組み合わせた場合、どちらがリスクの度合いに対するリターンの度合いが大きいと言えるかを比較してみましょう。この場合にも、組み合わせることによってどの程度リスクに対してリターンを得られているかを、個別の資産や他のポートフォリオと比較することができます。
基本4資産の均等分散型がリターン5.5%、リスク9.7%であるのに対し、8資産均等分散型はリターンが7.7%で有利ですが、リスクは12.1%と高くなっています。リターンとリスクのどちらかが近い数値で、どちらかが差がある場合であれば、2つの数値を比較してなんとなく判断はできることでしょう。
では、このように2つとも異なっている場合は、どちらが効率的でしょうか。この2つの比較では4資産分散型のシャープレシオが0.56であるのに対し、8資産分散型は0.64です。そのため、8資産分散型の方がリスクに対するリターンの度合いは大きいと結論づけることができます。
シャープレシオは同様のポートフォリオ、商品との比較がしやすい
このようにシャープレシオは同様のポートフォリオ、商品を比較する際などに用いることが可能です。もちろん、シャープレシオの高いものが必ずしも優れているわけではありません。しかし、同様のポートフォリオを比較する、あるいは配分を調整する際などは、シャープレシオを参考にしてみても良いでしょう。
シャープレシオの注意点
同じカテゴリーの商品で比較する
例えば、債券と株式などリスク・リターンの特性がまったく異なる商品では、シャープレシオも大きく違ってきます。そもそも商品を用いる目的が違うため、シャープレシオを比較してもあまり意味がありません。シャープレシオは同じカテゴリーの商品同士、あるいはポートフォリオを比較する際などに用いると良いでしょう。
異なる通貨での商品比較には使用できない
通貨が違えば為替レートが異なるため、リスク・リターンともに変わってきます。比較したい場合は、リスクとリターンをどちらかの通貨に合わせて換算することが必要です。
比較期間や比較時期を揃える必要がある
比較する期間が違えば、同じ商品であっても値動きが異なります。リスク・リターンともに異なるため、同じ期間で商品を比較してください。
運用がマイナス成績の場合はリスクが大きいほど数値が大きくなる
通常、シャープレシオはリターンに対し、リスクが大きい場合には数値が小さくなります。しかし、運用がマイナス成績だと、反対にリスクが大きいほど数値が大きくなる点に注意しましょう。例えば、リターンが-1%でリスクが5%だった場合、下記のようになります(無リスク資産の収益率は0.1%とします)。
- 計算式:(-1%-0.1%)÷5=-0.22%
これ対して、リスクが10%とすると下記の通りです。
- 計算式:(-1%-0.1%)÷10=-0.11%
リターンがマイナスなので、絶対値が小さい方が数は大きいということになります。ただし、単に数値の大小で比較すると、リスクが大きい方が数は小さくなるのです。
あくまで過去の数値であり未来を予測するものではない
シャープレシオは、過去の一定期間での実績です。未来を予測するものではない点は、念頭に置いておきましょう。リスク・リターンともに過去の一定期間での数値であり、これからも先もその数値になるわけではありません。シャープレシオも当然、これからの未来を予想するものではありませんので注意が必要です。あくまで、過去の実績値としてどうだったのかを判断してください。
まとめ
シャープレシオとは何なのか、計算の方法や活用方法、注意点などをご紹介しました。投資を行う上で、できるだけリスクは抑えながらリターンを得たいと思う方は多いでしょう。シャープレシオは、その際に有効になる数値です。
ここでは投資信託の商品について、シャープレシオの計算と活用例を取り上げました。しかし、初心者が投資信託を用いた資産形成を始める際には、商品選びで迷う場面も出てくるでしょう。つみたてNISAやiDeCoの普及により、投資信託を活用した資産形成などが普及し始め、それと同時に商品選びで迷う方も増えることが予想されます。そうした際、ポートフォリオがどちらなのか選択する時などに利用すると、リスクに対してリターンの高い方が一目でわかる便利な指標です。シャープレシオは商品選びで参考にすべき1つの指標とも言えるでしょう。
有名な投資家であるウォーレン・バフェットも、「シャープレシオは1つの指標として有効」といった言葉を残しており、機関投資家や投資のプロ達も活用している数値です。また、個別の株式を組み合わせた場合にポートフォリオのリスク・リターンを評価する上でも有効となります。
ただし、シャープレシオは過去の実績を元に算出した数値です。これからの未来を予想するものではない点は注意が必要です。また、リスクはあまり気にせず高いリターンを得たい場合には、シャープレシオにとらわれずリターンを狙った方が良いケースもあります。特に、20~30年といった長期で運用するなら、リターンの高いポートフォリオを選んでも良いでしょう。
リスクを好む投資家ならリスクは必ずしもマイナスのものではなく、プラスにもブレが出ます。その相場の上振れを狙う投資家にとって、シャープレシオはあまり参考になりません。反対にリスクをとにかく小さくしたいという投資家にとっても、リスクとリターンの度合いより、リスクがいかに小さいかを重視するならシャープレシオはあまり役に立たないこともあります。
このような指標の意味を知ることで商品を選びやすくなったり、より有利なポートフォリオの組み合わせや配分を理論的に決めたりすることができるようになるでしょう。まずはシャープレシオについて、ここでご紹介した内容を参考に活用方法を覚えておきましょう。
監修者プロフィール
小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)
日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表
<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。