損益通算とは?

資産運用には税金がつきものです。今回は、損失が出た場合、税金を少なくできる損益通算という制度についてご説明します。

損益通算とは?

損益通算とは

損益通算とは

株式投資や投資信託などの資産運用を行っていると、税金が気になるという方は多いでしょう。税金を支払うのは国民の義務ですが、利益に対しては税金を払うのに、損失が出た時は何の考慮もないと思われている方は少なくないはずです。
しかし、損失が出た時、確定申告を行えば税金を少なくする方法があります。それが「損益通算」という方法です。

損益通算は利益と損失を合算し、申告する利益を少なくできる制度

損益通算とは、一定期間に行われた売買を個別に計算し、その利益と損失を合算します。最終的に利益であったか、損失であったのかの数値を算出することです。つまり、損益通算とは利益と損失を合算し、申告する利益を少なくできる制度になります。

上場株式や投資信託などの金融商品は、1月から12月までの譲渡損益を通算して、最終的に利益が出ると確定申告を行わなくてはいけません(申告分離課税)。ただし、上場株式などの譲渡損失と配当金などは損益通算が可能です。譲渡損が出た場合は確定申告により、損益通算することによって3年間の繰越控除を受けることができます。

繰越控除とは、3年間損失を繰り越すことができる制度です。例えば、1年目に損失が出て繰越控除をした場合、3年間損失を繰り越すことができますので、2年目や3年目に利益が出た際に税金を減らすことができます。

2016年1月の税制改正で、上場株式などの対象範囲が上場株式・公募株式投資信託などから、特定公社債・公社債投資信託にまで拡大されました。上場株式や株式投信などの配当金や譲渡損益と、特定公社債などの利子や分配金、譲渡損益との損益通算が可能となっています。この税制改正によって、損益通算を行える範囲が広がったのです。しかし、すべての金融資産同士で損益通算が行えるわけではありませんので注意が必要です。

投資に掛かる税金

投資に掛かる税金

続いて、投資の利益に対して掛かる税金について確認していきましょう。投資に掛かる税金は金融商品によって異なりますので、しっかり確認することが大切です。

株式投資

株式投資で得ることができる主な利益は、売却益と配当益です。株取引で掛かる税金は2種類に分かれていて、株の売却益には譲渡益課税が、配当金には配当課税が課されます。株の売却益と配当金はともに税率が20.315%で、内訳は所得税が15.315%(うち復興特別所得税が0.315%)と住民税が5%です。
つまり、株式投資で得た利益については、20.315%の税金が掛かると覚えておけば間違いありません。例えば、100万円の利益が出た場合、203,150円の税金が課されることになります。

参考までに、配当益に対しては、配当が出た時に源泉徴収されます。そのため、特に確定申告を行う必要はありません。ただし配当も損益通算の対象になるので、損益通算したい場合は確定申告が必要です。

投資信託

投資信託は株式投資と同じく、譲渡益と配当収入に税金が掛かります。税率は株式投資と同じく20.315%。譲渡益についても株式投資とほぼ同じですが、 配当収入については株式投資と投資信託では若干異なります。
株式投資の配当の場合は、基本的にすべての配当に税金が掛かりますが、投資信託では、普通分配金と特別分配金(元本払戻金)で取り扱いが異なるのです。

普通分配金とは、分配金支払い後の基準価額が個別元本を上回る場合の分配金で、利益から出している分配金となります。
特別分配金は元本払戻金とも呼ばれ、特別分配金は課税対象となりません。収益分配後の基準価額が投資家の個別元本を下回る場合、個別元本を下回る部分が特別分配金となり、要するに利益ではなく自分の元本から分配金を出しているものになり、税金は掛かりません。

FX

FX(外国為替証拠金取引)にも税金が掛かります。これは株式投資や投資信託と同じですが、税金の種類が異なるのでしっかり覚えておきましょう。

FXで掛かる税金は、先物取引に掛かる雑所得などに該当します。税金の種類は異なりますが、税率は株式投資などと一緒で20.315%です。税率が同じであれば問題はないと思われる方がいるかもしれませんが、税金の種類が異なるのでFXの損益は、株式投資や投資信託の損益と通算できません。このように、税金の種類が違う金融商品同士の損益通算はできないので注意してください。こちらに関しては後ほど詳しくご説明します。

また、FXは源泉徴収ではなく申告分離課税となります。そのため、株式投資や投資信託の特定口座と異なり、利益が出た場合は基本的に確定申告が必要になります。
特定口座とは、投資商品を保有する際に用意されている口座のひとつで、投資家に代わって損益の申告を証券会社や銀行などの機関が行ってくれる口座です。この点についても、しっかり覚えておきましょう。

損益通算ができる金融商品

損益通算ができる金融商品


損益通算は、同じ種類の税金が掛かる金融商品に対して行うことができますが、税金の種類が異なる場合は損益通算できません。ここで、損益通算ができる金融商品のグループについて詳しくご説明しましょう。

カテゴリー①上場株式/公募株式投信 (配当所得・譲渡所得・利子所得)

国内や外国上場株式の売却損益、国内や海外上場ETFの売却損益、公募株式投信の売却損益、特定公募債の売却損益などは、掛かる税金が同じなので同じグループになります。同じグループ内の損益通算は可能です。例えば、国内株式と投資信託の損益通算は可能になります。

カテゴリー②先物取引(雑所得)

取引所FX、店頭FX、商品先物取引、オプション取引は、掛かる税金が雑所得なので同じグループになります。同じグループ内の損益通算は可能です。例えば、FXとオプション取引の間での損益通算は可能になります。

このように、掛かる税金によって金融商品をグルーピングすると、損益通算できる商品を分かりやすく分類できるでしょう。カテゴリーが違う金融商品同士の損益通算はできませんので、しっかり覚えておきましょう。

譲渡損失の繰越控除について

先に少し触れましたが、繰越控除とは3年間損失を繰り越すことができる制度です。例えば、1年目に損失が出て繰越控除をした場合、3年間損失を繰り越すことができます。そのため、2年目や3年目に利益が出た際に税金を減らすことが可能です。

譲渡損失の繰越控除について

損益通算をしてもまだ損失が残っている場合は、翌年以降3年間にわたって株式投資や投資信託、FXなどの金融商品から発生した利益から損失額を控除することができます。なお、繰越控除の適用を受けるためには損失が出た年から毎年、連続して確定申告をする必要がありますので注意しましょう。前年の取引が損であったとしても、当該年に掛かる確定申告を行っていなかった場合、その損失についての繰越控除の適用は受けられません。

また、繰越控除も同じ税金のカテゴリーの金融商品の間でしか行えないので注意してください。また、株式投資とFXは掛かる税金が違うので、株式投資とFXの間での繰越控除は利用できません。繰越控除のカテゴリーも損益通算と同じになります。

損益通算のやり方

損益通算のやり方

損益を行うためには確定申告をする必要があります。株式投資や投資信託の場合、本来「特定口座(源泉徴収あり)」は利益が出ても確定申告不要です。また、損失が出ているのであれば、特定口座ではなく一般口座でも税金が掛からないので、確定申告は必要ありません。

投資による損失が出た際など確定申告が不要な場合、あるいは確定申告が不要でもあえて申告した方が有利なケースがあります。その代表例が、損益通算や繰越控除です。損益通算を行うことによって支払う税金の金額を少なくできます(ただし、1社のみで特定口座で取引をしている場合、損益通算は取引金融機関が行ってくれるため確定申告は不要)。
繰越控除は翌年以降に利益が出た場合の税金を少なくできます。このように、確定申告が不要でも確定申告を行った方が良いケースがありますので、ご自身にとって有利になるのがいずれか確認するようにしてください。

損益通算の注意点

損益通算の注意点

損益通算は支払う税金を少なくできる、非常にメリットのある制度です。しかし、損益通算にも注意点はあります。ここでは具体的に2つのポイントを解説します。

損失の繰越控除は確定申告を1回でも忘れるとできなくなる

繰越控除は個人の場合、最大で3年間繰り越しできる制度です。しかし繰越損失は毎年、確定申告をする必要があります。
例えば、1年目に損失が出て確定申告しても、2年目、3年目も繰越控除を使いたいなら毎年申告が求められるのです。確定申告を1回行えば、その後は必要ないというものではないので注意しましょう。

NISA口座で損が出た場合は、確定申告をしても他の口座との損益通算や損失の繰り越しができない

NISA口座とは非課税口座のことで、利益に対して税金が掛からない口座です。通常、株式投資や投資信託の場合、利益に対して20.315%の税金が掛かります。
例えば、100万円の利益が出たとすると、20万3,150円の手数料が掛かります。しかし、NISA口座を使うと、この税金がかりません。これは、NISA口座の大きなメリットと言えるでしょう。

ただし、NISA口座では損益通算や繰越控除を使えません。それは、そもそも税金が掛からない口座だからです。NISA口座で損益通算や繰越控除ができないことは、あらかじめ覚えておきましょう。

まとめ

まとめ

損益通算について詳しくご説明しました。損益通算は損失と利益をぶつけることができる制度です。この損益通算を行うことによって、支払う税金を少なくできます。株式投資や投資信託などの資産運用では、なかなか節税できる方法がありません。そのため、損益通算や繰越控除は非常にありがたい制度と言えるでしょう

ただし、同じ税金が掛かる金融商品同士でないと損益通算できないなど、いくつか注意点もあります。ここで解説した内容をもとに損益通算について理解を深め、ご自身の投資などに活用してみてください。

監修者プロフィール

渡辺 智(ワタナベ サトシ)
FP1級、証券アナリスト。

<プロフィール>
大学商学部卒業後は某メガバンクに11年勤務し、リテール営業やプライベートバンカー業務、資産運用コンサルティング(投資信託、保険、債券、外貨預金など)、融資関係業務(アパートローン、中小企業融資)などを経験。銀行在籍中、2度の最優秀営業賞を受賞。銀行在籍時の金融商品販売額は500億円を超え、3000人を超える顧客に金融商品営業を行う。その後、外資系保険会社でコンサルティング営業として従事し、現在は業務経験・知識を活かして金融ライターとして独立。難しい金融を分かりやすく伝えることをモットーに活動中。