為替ヘッジとは?

為替変動リスクを抑える代表的な方法は、為替ヘッジの利用です。今回は為替ヘッジについて詳しく説明します。

為替ヘッジとは?

そもそも為替変動リスクとは?

そもそも為替変動リスクとは?

為替変動リスクとは、円と外国為替相場の変動により、外貨建て資産の価値が変動する可能性のことを言います。外貨建て資産とは、外国株式、外国債券(円建てのものを除く)などのように「円以外の通貨で価値(=価格)が表示される資産」のを指します。

基本的には、為替も株式と同様に、需要(買いたい人)と供給(売りたい人)のバランスで価格が変動します。米ドルと円で説明すると、円よりも米ドルの人気が高まって米ドルが買われると円安になりますし、逆に円がドルよりも人気が出て円が買われると円高になるわけです。為替変動によって損失を負ってしまう可能性がありますが、逆に利益を得られる可能性もあります。

為替変動を利用した代表的な投資商品は、外貨預金やFXです。外貨預金は基本的に為替が円安方向に動くと利益になります。一方、FXの場合は「売り」から入ることもできるので、為替が円高に動いても利益を狙える金融商品です。為替変動はリスクであると同時に利益を狙えるものですが、投資家の中には「為替を予想するのは難しいし、急激に大きく動くこともよくあって怖い。為替リスクを回避して運用したい」などと考えている人もいます。
特に、日本はほとんどの通貨に関して長期円高傾向にありますので、為替リスクを排除して
運用したいと考える人が多くいても不思議ではありません。

もちろん、FXは円高局面になっても利益を出せる投資商品です。ただし、外貨預金をはじめほとんどの金融商品は円安にならないと利益が出ないので、為替リスクを排除したいと思うのは当然と言えるでしょう。

為替ヘッジとは

為替ヘッジとは、為替変動の影響を抑える仕組みのことです。外貨の先物取引やオブション取引を利用して、為替変動リスクを回避します。為替ヘッジのイメージを図にしてみました。

為替ヘッジとは

投資には株価変動リスクなど様々なリスクがありますが、為替ヘッジをつけることによって、そのうちの1つである為替リスクを低減させることができます。

海外資産に投資する場合、外貨建てでは運用収益が得られたとしても、為替変動により円換算すると資産価値が下がる可能性があります。為替ヘッジを行うことで、こうした損失を抑制することができます。

通常、為替ヘッジは円高による為替差損を回避する目的で行われることが多く、外貨建て資産に投資をすると、同時に外貨売り円買いの先物予約をして将来の為替変動に備えます。その際、為替相場の円安局面で得られる為替差益は犠牲になり、為替へッジをする際には2カ国間の短期金利差相当のヘッジコストがかかります。

海外の株式や債券に投資する投資信託を購入する場合、商品によっては為替ヘッジの「なし・あり」のどちらかを選ぶことが可能です。

為替ヘッジなし

為替ヘッジなしの投資商品の場合は、為替変動リスクを受けることになるので、一般的には為替が円高になった場合はマイナスになり、為替が円安に進めばプラスになります。為替が円安方向に進んでいれば大きな利益になりますが、為替は一般的に円高のスピードの方が早いでしょう。
例えば、リーマンショックやコロナショックなどを思い浮かべていただくと、わかりやすいかもしれません。このような局面が訪れてしまうと、為替ヘッジなしの投資商品は大きなマイナスになってしまうのです。

為替ヘッジあり

為替ヘッジありの商品の場合、為替変動リスクのすべてを抑えることはできませんが、為替リスクの大半を抑えることができます。もちろん、為替が円安になった時の為替差益を得られませんが、為替が円高に進んだ時のマイナスを防ぐことができるのは大きなメリットと言えるでしょう。

為替ヘッジのメリット

為替ヘッジのメリット

為替ヘッジには、様々なメリットとデメリットがあります。ここからは、それぞれについて詳しくご説明しましょう。まずは、メリットから見ていきましょう。

為替変動による損失を抑えられる

為替ヘッジを利用する最大のメリットは、為替の変動リスクを抑えられることです。先ほどもご説明しましたが、米国株などの海外資産に投資をする場合、海外資産自体では収益を得られたとしても、為替変動により円換算すると資産価値が下がる可能性があります。為替ヘッジを行うことで、こうした損失を抑制できます。
通常、為替ヘッジは円高による為替差損を回避する目的で行われることが多いでしょう。外貨建て資産に投資をすると同時に、外貨売り円買いの先物予約をして将来の為替変動に備えることが可能です。

「為替ヘッジなし」は為替の変動リスクをとるので、為替が円高方向に向かうと大きなマイナスになってしまいます。しかし、「為替ヘッジあり」を選べば、完全に為替変動リスクを減らすことはできませんが、為替変動リスクの大半を抑えることが可能となります。円高局面には大きな力を発揮するでしょう。

コロナショック以降、為替の動きは安定しています。しかし、コロナショックやリーマンショックのように大きな経済危機が起こると、為替変動リスクは非常に高くなります。そのため、為替ヘッジを使う意味は非常に大きいと言えるでしょう。

安定的な運用が期待できる

為替ヘッジをかけることによって、海外株式や海外債券などの海外資産にリスクを減らして運用が可能です。海外資産に円から投資する場合、どうしてもドルやユーロなどの為替変動リスクが付きまといます。しかし、為替ヘッジを利用すれば、完全ではないにしても為替リスクを排除して運用できるでしょう。

為替ヘッジのデメリット

為替ヘッジのデメリット

次に為替ヘッジのデメリットについて説明します。

ヘッジコストがかかる

為替ヘッジは、手数料なしで行えるものではありません。「ヘッジコスト」というコストがかかります。この点は、為替ヘッジのデメリットと言えるでしょう。

理論的に見ると、ヘッジコストは「外貨の短期金利と日本円の短期金利の差」となります。しかし、各通貨の見通しや需給などの状況によっては、外貨の調達に対する上乗せ金利が発生し、為替ヘッジコストは短期金利の差と乖離(かいり)します。

なお、ヘッジコストの主な上昇要因は以下の通りです。

◎金利要因
海外…海外の中央銀行の利上げ・金融引き締め観測
国内…日本銀行の利下げ・金融緩和観測

◎需給要因
海外・国内ともに米ドルやユーロなどの海外通貨に対する決済資金需要・金融規制などによる外貨の供給減・国内銀行などの外貨建て資産への投資需要

ヘッジコストの変動要因についても、ご説明しましょう。

◎金利要因
日本銀行の政策金利と海外の中央銀行の政策金利の差が、ヘッジコストに影響します。各国中央銀行の金融政策に対する市場の思惑により、市場が織り込む将来の金利差に変化が見られた場合は、ヘッジコストの変動につながりやすくなるので注意が必要です。

◎需給要因
企業の決済資金として、外貨の需要が高まる場合があります。特に基軸通貨である米ドルやユーロなどのメジャー通貨は、代金決済のため需要が高まり、上乗せ金利の上昇を通じて一時的にヘッジコストが上昇する傾向があるでしょう。

また、市場のリスクが高まるとリスクからの逃避需要が増加し、ヘッジコストが上がりやすくなります。先行きへの不透明感が高まると、リスク回避の動きから基軸通貨である米ドルの需要が高まるのです。例えば、リーマンショックやコロナショックなど、金融市場が不安定になると米ドルの需要が高まり、ヘッジコストが上昇する場合があるので注意が必要です。

さらに、基軸通貨である米ドルの供給面も、ヘッジコストに大きな影響を与える傾向があります。米ドルの供給面では、リーマンショック後に各国で導入・強化されたレバレッジ規制や、ボルカールールなどの金融規制が米ドルの供給量を減少させる遠因となっています。米ドルの供給量が少なくなるとヘッジコストは高くなりますので、この点についても十分に注意してください。

現在、米ドル円の為替ヘッジコストは0.5%を切る非常に低い水準です。アメリカは2023年までにテーパリングの可能性がありますが、当面は低い為替ヘッジコストが維持される見込みとなっています。しかし、現在はコストが低いものの、過去には3%を超える高いヘッジコストがかかっていたこともありました。こうした背景から、ヘッジコストがかかることは為替ヘッジの大きなデメリットと言えるでしょう。

完全に為替リスクを排除できるわけではない

為替ヘッジをかけたからといって、完全に為替リスクを排除できるわけではありません。為替ヘッジをかけることによって、大部分の為替リスクを抑えることはできます。しかし、相場動向などによって為替変動リスクを受けることもあるでしょう。100%為替変動リスクを抑えられないのは、為替ヘッジにおけるデメリットの1つです。

為替差益を享受できなくなる

為替ヘッジをかけることによって為替差損を防ぐことができますが、一方で為替差益を受けられなくなります。例えば、コロナショックが起きた2021年3月に為替は大きく円高になりましたが、その後は多くの方がご存知の通り、大きく円安になっています。
このように、大きく為替が円安に向かう時もありますので、為替ヘッジをかけてしまうと、為替差益を受けられなくなってしまう点には注意が必要です。為替差益を享受できないのは、特にリスクオン相場の際に、大きなデメリットになるでしょう。

まとめ

まとめ

ここでは為替へッジについて詳しくご説明しました。為替ヘッジとは、簡単に言えば為替変動リスクを抑えられる仕組みです。コロナショック以降のマーケットは、基本的に上昇傾向にあります。そのため、為替ヘッジの必要性は少ないと思われている方が多いかもしれません。しかし、過去のマーケットを振り返ってみれば、急速に円高になったことが何度もありました。そのような局面の時、為替へッジをつけておくメリットは非常に大きいと言えるでしょう。

為替の動きは、投資のプロであるファンドマネージャーでも読みづらいと言われています。そのため、個人投資家が正確に為替の動きを予想するのは、至難の業とも言えそうです。マーケットは常に変動をするものであり、一本調子で長期間上昇することはありません。今現在、為替ヘッジの必要性は薄いかもしれませんが、今後は必要性が高まる可能性が考えられます。これに備え、ここで取り上げた内容を参考に、あらかじめ為替ヘッジに関する理解を深めておきましょう。

監修者プロフィール

渡辺 智(ワタナベ サトシ)
FP1級、証券アナリスト。

<プロフィール>
大学商学部卒業後は某メガバンクに11年勤務し、リテール営業やプライベートバンカー業務、資産運用コンサルティング(投資信託、保険、債券、外貨預金など)、融資関係業務(アパートローン、中小企業融資)などを経験。銀行在籍中、2度の最優秀営業賞を受賞。銀行在籍時の金融商品販売額は500億円を超え、3000人を超える顧客に金融商品営業を行う。その後、外資系保険会社でコンサルティング営業として従事し、現在は業務経験・知識を活かして金融ライターとして独立。難しい金融をわかりやすく伝えることをモットーに活動中。