自社株買いって何?

自社株買いにはどのような意味があり、投資家にとってどのような影響があるのか。ここで、その基本知識をまとめて解説します。

自社株買いって何?

自社株買いとは

自社株買いとは

自社株買いとは、発行している株式を企業が自社で買い戻すことを言います。企業は株式を発行し、投資家に買ってもらうことで設備投資など事業資金を調達します。
自社株買いはその反対に、自社の資金を使って株式を買い集めることを指します。

本来、事業拡大のために資金を集めることは大切なことですが、なぜそのようなことを行うのでしょうか。その大きな理由としては、まず株主への還元が挙げられるでしょう。自社株買いを行うことで、会社の発行済株式総数が減少します。
発行済株式数が減るということは、1株あたりの株式の価値が高まることになり、株価が上りやすくなるために株主への還元となるのです。また、配当金の節約に使われることもあります。

買い戻した株式は消滅させることもできますが、会社が「金庫株」として株式を無効とせず保有し続けるケースもあります。そして、再び市場に売却することもあります。
自社株買いを行う理由には、「株式の価値を高めることで株主への還元」、「配当金の節約」、「株価の調整のため」が挙げられ、その他に敵対的買収への防衛策として行われることもあります。

自社株買いのメリット:投資家側

自社株買いのメリット:投資家側

では、自社株買いが投資家にとってどのようなメリットがあるのか、詳しく解説していきましょう。自社株買いは近年、増配に並ぶ代表的な株主還元の手法として用いられています。株式総数が減少することで1株あたりの利益が増え、株価が上がることが期待できることが、その理由に挙げられます。

なぜ、自社株買いによって株価が上昇するのか。その理由は下記の3点です。

  • ROE(自己資本利益率)が向上する
  • PER(株価収益率)が低くなる
  • PBR(株価純資産倍率)が低くなる

ROE(自己資本利益率)が向上する

ROEは自己資本利益率のことを示し、自己資本に対してどの程度の収益を上げたかを測る指標です。数値が高いほど自己資本を有効活用し、利益を上げているということになります。ROEはEPS(当期純利益を発行済株式数で割った値)をBPS(自己資本を発行済株式数で割った値)で割って求めるため、発行済株式数を減らすことで向上します。
ROEが向上することで、資金を効率よく使い利益を上げることができていると市場から判断され、買われることで株価が上がることに繋がるのです。

PER(株価収益率)が低くなる

PERとは、株価に対してどの程度の収益を上げたのかを測る指標のことを言います。その企業の利益に対し、株価が割安か割高かを判断する指標として用いられ、数値が小さいほど割安と考えられています。
PERは株価をEPS(当期純利益を発行済株式数で割った値)で割って求めますので、発行済株式数が減ることでEPSの数値が高くなり、PERが小さくなります。このように、PERが小さくなることでその銘柄が割安であると市場から判断され、買われることで株価が上がることになるのです。

PBR(株価純資産倍率)が低くなる

PBRは、純資産に対して株価が何倍であるかを測る指標のことを言い、PERと同様に、株式が割安か割高かを判断する指標でもあります。PBRが低いと市場から割安であると判断され、その株式が買われることで株価が上りやすくなります。
PBRは株価をBPS(自己資本を発行済株式数で割った値)で割って求めるため、発行済株式数が減ることでBPSの数値が上り、PBRが小さくなる結果になるのです。

これらの理由から、自社株買いによって株価が上がることがあります。また、自社株買いによって同じ1株あたりの配当金を支払っても、支払う配当金の総額が減るために1株あたりの配当金が期待できる場合があるでしょう。なお、自社株買いを発表した企業や発行済株式数に対する取得割合、取得する機関は公表されているため、それらを調べ購入することが可能です。

自社株買いのデメリット:投資家側

自社株買いのデメリット:投資家側

自社株買いには、投資家側にとってデメリットもあります。先に自社株買いを行うことでROEやPERの向上に繋がり、株価が上りやすいとお伝えしました。しかし、それがきっかけで株価が上がった場合、利益確定のための売りが増えることで株価が一時的に乱高下してしまうこともあります。

また、株式の発行は本来事業を拡大のために必要な資金を調達する手段です。それを縮小するということは、事業拡大の期待があまり持てないのではないかと市場から判断され、株価の下落に繋がる可能性もあるでしょう。
理論上は株価上昇に繋がる要因になることですが、このようにネガティブな判断をされる可能性もあり、必ずしも上昇するわけではありませんので注意してください。
さらに、買った自社株を再び売却する場合には、反対に株価の下落要因となります。そのため自社株買いを行った後、企業がどのように処理するかにも注目する必要があるでしょう。

そして、自社株買いは一時的に株価を押し上げる結果になったとしても、会社の収益が向上した結果株価が上がるというわけではありません。そのため、長期的に考えると、株価はまた元の水準に戻る可能性があります。保有している銘柄が自社株買いを発表した、あるいはこれから購入する場合は注意しておきましょう。

自社株買いのメリット:企業側

自社株買いのメリット:企業側

自社株買いによって1株あたりの株価が上昇することは、企業側にとってのメリットでもあります。

敵対的買収からの企業防衛策にもなる

1株あたりの株価が高いと、買収する側は株式を取得するのにそれだけ大きな資金が必要になるため、買収しにくくなります。また、買い取りした株式の分だけ配当金の支払いも減ることになるでしょう。
自社株買いを行うと手持ちの資金を減らすことになりますが、自己資本比率が高く現預金も潤沢にあるケースでは、このように資金を引き揚げて配当金の節約を行うことも手段の1つと言えそうです。

また、買い入れた株式を「金庫株」にした場合はストックオプションにも活用可能です。ストックオプションとは、会社が従業員や取締役に対して、会社の株式をあらかじめ決めた価額(権利行使価額)で将来取得する権利を与える制度のことです。ストックオプションを与えられた社員は会社の株価が上昇した際、ストックオプションによって優遇された価額で、定められた数量の株式を取得し売却することができます。

市場での株価との差額が、株式を取得した社員にとっての利益です。社員は株価が上がるほど利益が大きくなるので、株価を上げるために努力します。ストックオプションは、それが結果的に会社や株主にとっての利益となるという仕組みです。社員の頑張った成果が株価に反映され、社員のモチベーションアップや退職時など将来の資産形成にもなる優れた制度と言えるでしょう。金庫株は、このようなことにも活用できます。

1株あたりの株価を上げることでM&A対策になる

M&Aにおいて自社株買いするメリットには、株式交換によるM&Aの対価とできること、そして株式譲渡によるM&Aの対価とできることの2点が挙げられます。株式交換によるM&Aの対価支払いは、上場企業のM&Aで行われることが多い手法です。

売り手の企業は買い手に対して、自社株で代金を支払うことができます。買い手の企業は売り手企業の株主に自社の株式を渡し、それと売り手企業の株式を買い手企業に引き渡します。この際に自社株を対価にすることで、新株発行による株価の下落リスクや発行コストを減らすことが可能です。この場合、売り手は買い手の100%子会社になります。

株式譲渡によるM&Aは売り手会社の株式を現金で買い取り、買い手側は対価を自社株で支払うというものです。この場合、売り手会社の株主はそのまま株を保有し続けることもでき、株式交換によるM&Aと違って100%子会社にはなりません。しかし、この場合は売り手側の合意が求められるため、条件面での話し合いなどが必要です。

自社株買いのデメリット:企業側

自社株買いのデメリット:企業側

自社株買いの企業側のデメリットは、手持ちの資金が減ることです。そして自己資本の減少がデメリットの1つに挙げられるでしょう。配当金の節約に繋がり、金融費用の改善によって財務指標の改善が可能になります。しかし、その反面、自己資本比率の減少や手持ちの資金が減り、安全性を示す指標にマイナスに作用する点はデメリットです。

株式を発行する目的は、事業のための資金を調達することにあります。しかし、自社株買いは、反対に発行した株式を会社の資金で買い取り、手持ちの資金を減らす結果に繋がるのです。すると、貸借対照表の資産の部から預金がマイナスになり、純資産の部から自己株式がマイナスになります。
その結果、自己資本比率(自己資本÷総資産)が低くなり、預金がマイナスになってしまうケースもあります。同じく安全性を示す短期資産や短期負債の比率を表す流動比率(流動資産÷流動負債)も低くなるため、企業の安全性の評価のマイナスに繋がることがあります。そのため、自社株買いを行う際にはマイナスに影響しないよう、自己資本比率が既に高い水準であり、現預金が潤沢な状況で行うことが望ましいでしょう。

ただし、配当金の節約なども可能であり、インタレスト・カバレッジ・レシオの改善に繋がります。企業にとって今どちらを優先する方が企業にとって利益が大きいのか、総合的に判断した上で決定することが必要です。自社株買いを行う企業は、自己資本と預金資産がともに潤沢であり、かつ安定している企業であると言っても良いでしょう。

まとめ

まとめ

自社株買いとは何なのか、投資家・企業側の両方にとってのメリットやデメリットと共に詳しく解説しました。自社株買いが行われることは、理論上だと株価が上がりやすくなり、基本的にプラス要因となります。M&Aの局面でも、新株発行による株価の下落のリスクを回避することができるなどのメリットが期待できるでしょう。

しかし、市場ではそれがマイナス材料として判断されることもあります。株価が上がったことが乱高下するきっかけになる可能性もあるため、必ずしもプラスに働くわけではありません。そして、財務指標にマイナスの影響を与えることもあり、結果的に企業経営にとってマイナスに影響し、株価のマイナスに繋がる場合もあるでしょう。基本的には株価の上昇要因ではありますので、その後の値動きにも注意しながら利益を得るチャンスとして活用してください。

自社株買いが何のために行われるのか? 投資家目線はもちろん、企業側からの目線でもメリットやデメリットを知っておきましょう。実際に発表されている企業が何の目的で発行しているのか考え、その後の動向に注目してみるのも株式投資の面白みの1つと言えます。銘柄選定や投資判断の材料の1つとして、また、より楽しんで株式投資を行うために、ここでお伝えした内容をぜひ参考にしてください。

監修者プロフィール:

小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)
日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表

<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。