PTSってなに?

PTSという言葉をご存じでしょうか。仕事が終わった夜間や始業前等、市場が開いていない時間帯にも取引することが可能となる、PTS取引について詳しく解説します。

PTSってなに?

PTSとは

PTSとは

PTSとは「Proprietary Trading System」の略称。私設取引システムを意味する言葉で、証券取引所を通さずに取引を行うことができるシステムのことです。通常、株式取引は証券取引所を経由して行われ、各証券取引所には以下のように取引時間があります。

各証券取引所

現在は24時間注文を出せますが、注文を出すだけで約定はしません。取引が成立するのはこの時間のみです。

PTS取引の別名は夜間取引

しかし、PTS取引は独自の取引のシステムであるため、証券取引所が開いていない夜間や売買立会前、昼休みにも取引を行い、成立を確認することができます。
このシステムは1998年の証券取引法が改正され、取引所集中義務が撤廃されたことで実現し、証券会社が独自に運営し、証券取引所を通さずに取引を行うことができます。

そのため、昼間に仕事をしていて株式の相場を見て取引できない方でも、仕事が終わってから取引することができます。別名「夜間取引」とも言われていますが、夜間に限らず、朝の仕事前の時間や昼休みなどにも取引することが可能です。

PTS取引では呼値を小刻みに設定できる

PTS取引は取引所で取引する場合と比較して、呼値(売買する際の価格の刻み幅のこと)がより小刻みに設定されています。そのため、投資家が希望する値段で約定や注文を行いやすいという特徴があり、大きな魅力の一つと言えるでしょう。

PTS市場

PTS取引は、証券会社がPTS市場に取り次ぎして取引される仕組みです。現在のPTS市場はSBIジャパンネクスト証券のジャパンネクストPTSと、チャイエックス・ジャパンの提供するチャイエックスPTSの2つのみとなっています。

  • ジャパンネクストPTSの市場
    ジャパンネクストPTSの市場は従来の第1市場を「J-Market」と呼んでおり、デイタイム・セッションの取引時間は8:20~16:00、ナイトタイム・セッションの取引時間は16:30~23:59です。
    第2市場の「X-Market」はデイタイム・セッションのみの取引で、独自の単位で取引するJ-Marketとは異なり、取引所と同じ「呼値」の刻みで取引します。SOR(スマート・オーダー・ルーティング:最良の市場を選択して注文を執行する)判定された場合のみ、取り次いで取引しています。
  • チャイエックスPTSの市場
    チャイエックスPTSには参加者要件・呼値・手数料率が異なるChi-AlphaとChi-Selectの2市場があり、両市場とも8:00~16:00のデイタイム・セッションのみ取引が行われています。

    つまり、PTSデイタイム・セッションなら証券取引所の前場開始前や前場・後場の間の休憩時間、後場終了後から16:00までの時間帯でも売買が可能。さらにPTSナイトタイム・セッションであれば、立会時間外の16:30~23:59まで売買することもできます。

PTSを活用するタイミングとメリット

PTSを活用するタイミングとメリット

PTSを利用することで、夜間でもリアルタイムで取引が可能です。そのため、証券取引所が開いている日中に仕事で取引ができない方も、仕事が終わった夜間や昼休み、始業前等に取引することができます。
現在ではオンラインで24時間注文を受け付けることができますが、それはあくまで「注文受付」です。「取引成立」ではありませんので、時間外に出した注文が約定したかどうかは開場してからわかります。

注文から成立を確認するまでの結果を早く見ることができる

しかし、PTSを利用すれば、その場で取引成立を確認することが可能です。注文から成立を確認するまでの結果を早く見ることができるのは、大きなメリットと言えるでしょう。昼間仕事をしていたり、昼間忙しく取引できる時間が限られていたりする人はPTS取引を活用し、希望する価格と差があったとしても、その場ですぐ取引できる価格で注文から約定まで行うこともあります。

売買手数料が安い

また、一般的には証券取引所を通じて通常の時間帯に取引するより、売買手数料が安いという点もメリットです。証券取引所で取引するよりPTSを利用した方が有利になることがあるので、どの程度の差があるのかを確認しておきましょう。

先回りして取引することが可能

そしてPTSの大きなメリットを得られるのは、取引所閉鎖後に株価に影響するニュースが発表された場合等のタイミングです。株価は企業の決算発表や業績ニュースなどの影響を受けます。企業の決算発表や業績ニュースなどは証券取引所の閉鎖後に発表される場合が多く、翌営業日の始値に影響を及ぼします。
PTSを利用することで夜間の内に取引できるため、翌営業日に証券取引所が開くのを待ち注文する等する必要がなく、先回りして取引することが可能です。

海外の発表を受け、始値が出る前に取引成立を確認できる

また、アメリカやヨーロッパの重要な経済指標や経済政策の発表、FRB議長やECB議長の発言等は日本の株式市場にも大きな影響を与える場合があります。
しかし、アメリカやヨーロッパと日本では大きな時差があるため、発表されるのは日本の証券取引所の時間外です。内容によっては日本の相場に大きな影響を及ぼし、翌営業日の始値が大きく上下することもあるでしょう。

例えば、FRBの量的緩和の規模縮小等のニュースを受けた際には株価の下落要因となり、米国株式だけでなく日本株の相場も大幅な値下がりが起きる可能性もあります。それが時間外に発表されると、翌日の始値が大暴落することもあるのです。しかし、証券取引所の開場を待たずに取引できれば、大きな損失を回避することに繋がります。

反対に、量的緩和の規模拡大等の相場にとって好材料となる情報が発表された場合には、始値が大幅に上昇する前に取引を行って利益を得ることも可能です。このような海外の発表を受けて、翌営業日の取引所の開場を待たずに注文し、始値が出る前に取引成立を確認できるメリットは大きいと言えるでしょう。

自分の希望に近い値段で約定できる

この他、証券取引所に比べて呼値(注文時の値段の刻み)が小さく設定されており、自分の希望に近い値段で約定できる可能性があります。呼値は取引する銘柄の株価によって決められた売買の単位です。5円刻み、10円刻みなど定められており、それ以外では取引することができません。しかし、PTS取引の場合、それよりも小さな値段の刻みでも取引することが可能です。

信用取引ができる

また、信用取引もできます。信用取引は投資家が現金や株式、国債、地方債などの担保を証券会社に預け(委託保証金という)、現金や株式を借りて売買する株式投資です。簡単に言うと、証券会社からお金を借りて元手以上の投資をすること。レバレッジ効果によって担保となる委託保証金以上の取引が可能になり、元手を投資して得られるリターンよりも大きなリターンを得ることもできます。

しかし、その反面、損失が発生した場合には当然ながら、自分が投資した金額以上の損失が発生する場合があるので注意しましょう。信用取引は初心者には不向きなものではありますが、資金効率を高め、またリスクヘッジにも活用することができ、投資の幅を大きく広めてくれます。こういった取引も、PTSを活用することで時間外に行うことが可能です。

PTSを行うには証券口座を開設し、取引ができれば、特に面倒な手続きを行う必要はありません。

PTS取引の注意点

PTS取引の注意点

値動きが大きくなるリスク

PTS市場は売買に参加する投資家が少ないため、希望する注文が約定しないことも多いものです。売買ボリュームの少なさが災いし、値動きが大きくなるリスクがあるでしょう。また、東証一部・二部やマザーズ、ジャスダックといった市場の銘柄は対象ですが、外国株やETF等はPTSに非対応の銘柄も多くあるのが現状です。

取引が成立しない可能性

株式の注文方法は「逆指値」、「成り行き」などさまざまありますが、PTS取引では指値注文に限定されます。そのため参加者が少ないことを考慮すると、指値注文ではなかなか希望する価格・数量での取引が成立しにくくなっています。
指値注文は売買価格を指定して希望する価格で取引できるという反面、希望する価格での売り手がいなければ取引が成立しません。そのため、市場が急変した際に取引が成立せずに、売り時や買い時を逃してしまう可能性などが考えられます。

取引規制

また、PTSでは夜間等時間外でも取引が可能ですが、取引規制(注文の受付けの停止)が行われることもあります。例えば、決算短信等(業績予想の修正を含む)の発表を行った場合、権利付き最終日の銘柄は当日の夜間は取引停止になることもあるのです。その他に、国内の金融商品取引所およびPTSによる売買規制等および監理銘柄・整理銘柄の対象となった場合等もあります。

対応している証券会社が少ない

さらに独自の取引システムを持っている必要があるため、対応している証券会社が少ない点にも注意しましょう。PTSが可能な証券会社間でも、PTSで取引できる内容が証券会社により異なっていることもあります。それぞれの証券会社でどのような差があるのかを確認し、自分に合った会社を選ぶようにしてください。

このような注意点をしっかり理解しておけば、リスクを抑えた取引を行い、有利にPTSを活用することができるはずです。

まとめ

まとめ

PTS取引とは何なのか、その特徴や活用法、そして注意点などについて解説しました。平日の昼間は多くの方が仕事をしているため、じっくり投資する時間がないという方は多いでしょう。そんな方でも仕事を終えた夜間に投資できるのが、PTS取引の大きなメリットです。

PTS取引なら証券取引所の取引時間外に大きな発表があった際に注文を出し、取引成立を確認することもできます。しかし、通常の取引所での取引とは注文の方法が異なる他、取引できる銘柄が限定されるなどのデメリットも少なくありません。こうした点については、あらかじめ理解しておく必要があります。

ここでご紹介した方法を含め、個別銘柄やETFの取引ではPTSを活用できる場面が多くあります。特に少額からでも個別銘柄の取引が可能なため、投資初心者にもおすすめと言えるでしょう。昼間になかなか時間を取ることができないが、投資を行ってみたいという方は、PTS取引を検討してみると良いかもしれません。

なお、LINE 証券では2020 年 5 月 11 日より、チャイエックス・ジャパン株式会社が運営する PTSにおいて、取引ができるようになりました。

また、PTSではありませんが、平日21時までリアルタイムで1株単位の取引することができる「いちかぶ」というサービスもLINE証券にはあります。
少額から個別銘柄を時間外でも取引することができるのは、特に大きな資金を投資することに抵抗のある初心者、あるいは少額から個別銘柄への投資を始めてみたいという方にとって大きなメリットと言えるでしょう。

監修者プロフィール

小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)
日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表

<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。