空売りって何?

株式投資の用語である「空売り」とは、いったい何を表しているのでしょうか。その仕組みや特徴を詳しく解説します。

空売りって何?

空売りとは?意味と仕組み

空売りは信用取引の注文方法です。通常の買いから入る取引とは逆に売りから始める取引のことで、別名「信用売り」とも呼ばれています。

信用取引とは投資家が現金や株式などの担保を証券会社に預け(委託保証金と言う)、現金や株式等の証券を借りて売買する株式投資です。空売りは証券会社から株式等の証券を借りて、現物を保有せずに株式等の証券を売却。そして決済日には証券会社に借りた証券を返却する必要がありますので、市場から買い戻し返却します。通常、投資の売却益は通常株式等を購入し、価格が上がった時に売却することで得ることができます。しかし空売りの場合、売却した時の価格より買い戻した際の価格が下がっていれば、その差額で利益を得ることができるのです。

例えば株価100円の株式を証券会社から1,000株借り、それをそのまま売却したとしましょう。その時に売却した価格は10万円になります。そして、証券会社に借りた株式を返す際に株価が90円まで下がったとすると、売った1,000株を買い戻す時の価格は9万円です。それを証券会社に返すと、売却して得られた10万円から証券会社に返す株式の価格9万円を差し引き、1万円の利益が残ることになります。
通常は株価が安い時に買い、高い時に売ることで利益を得て、株価が下落する局面では利益を得ることはできませんが、信用売りは下落相場であっても利益を得ることができます。

空売りの特徴

空売りの特徴は、対象の銘柄が値下がりすることで利益を得られること。しかし、反対に対象銘柄が値上がりしていると、売った時よりも高い価格で買い戻さなければならないため損失が発生します。例えば、上記の例で決済日に株価が110円に上がっていた場合には、10万円で売った株式を11万円で買い戻さなければなりません。すると、1万円の損失が出ます。このように空売りには株価が上がれば損失、株価が下がれば利益が出るといった特徴があるのです。

空売りの増加による相場の下落防止のため、規制や制限が入ったり、一定の単元以上の株式の空売りが規制されたりすることもあります。過去に、空売りが意図的に株価を下落するために用いられ、相場が混乱したことがあったため、空売り価格規制が設けられました。個人投資家の場合の規制対象は50単元以上となり、それを満たない取引は制限の対象外となるため、気にしなくても問題ありません。

空売りの種類

空売りの種類

空売りは信用取引でのみ可能な取引です。信用取引には下記の「制度信用取引」と「一般信用取引」の2種類があります。それぞれ特徴をご紹介しましょう。

制度信用取引

信用取引には制度信用取引と一般信用取引があります。制度信用取引は売買できる銘柄や返済期限、株式の貸株料が証券会社によって定められています。貸株料とは、空売りをする株式を証券会社から借りる際の費用のこと。なお、信用買いの場合は資金を証券会社から借りることになり、金利が発生します。制度信用取引は返済期限が最長6カ月以内であること、空売りについては貸株料が証券取引所により定められていること等が大きな特徴です。制度信用取引では投資家と証券会社の間での取引だけでなく、証券会社が金融証券会社という機関から株式や資金を借りる貸借取引が行われます。

一般信用取引に比べ、安い貸株料で株式を借りることができるという点がメリットと言えるでしょう(信用買いの場合には資金を借りる金利が安い)。また、制度信用取引では空売りによって多くの投資家が信用売りを行うと証券会社の株式が不足することがあり、その場合は機関投資家などから証券会社が株式を借りることになります。その際、機関投資家等に手数料である逆日歩(品貸料)を支払わなければならないことがある点に注意してください。

一般信用取引

制度信用取引が銘柄や返済期限、金利や貸株料が定められているのに対し、一般信用取引ではこれらを証券会社が独自に決めることができます。制度信用取引では証券会社が金融証券会社から資金や株式を借りていたのに対し、一般信用取引では投資家と証券会社での取引となります。6カ月以上の取引もでき、3年以内等の期間を設定している場合が一般的なため、制度信用取引と比べ長期的な取引が可能です。金利や貸株料は制度信用取引と比較すると高く設定されていますが、制度信用取引では逆日歩が発生するのに対し、一般信用取引では逆日歩が発生しません。

このような違いがありますので、取引の目的や投資のスパンによって適した方を選んでいきましょう。

空売りのメリット

空売りのメリット

下落相場でも利益を得ることが可能

空売りのメリットは、下落相場でも利益を得ることが可能な点です。通常、投資で利益を得るには価格が上がることが必要ですが、空売りは値下がり相場であっても利益を得られます。相場が下降トレンドの時には、現物買いだけで利益を得ることは難しいものです。しかし、空売りは相場の下落によって利益を得ることができる取引のため、そのような局面でも利益を得られます。

<保有株式の値下がりに対するリスクヘッジも可能>
また、単に利益を得ることを目的とするだけでなく、空売りをすることで保有株式の値下がりに対するリスクヘッジも可能です。空売りは現物の価格が下がった場合に利益を出すことができるため、現物の株式の価格下落と相殺して損失を抑えることもできます。

例えば株式の現物を購入し、その株価の下落に備え、同じ株式の空売りを同時に行うとしましょう。同じ株数の買いと売りを同時に行えば、実質的にリスクゼロで個別銘柄に投資することができ、配当や株主優待を受けることもできるというわけです。
空売りは株式投資の損失を軽減するために活用することもでき、リスクヘッジに使えることは一つのメリットと言えるでしょう。

大損のリスクを回避しながら、個別銘柄の利益を得ることが可能

株式投資は、配当や株主優待といったメリットを得ることができます。しかし、個別銘柄は株価の大幅な下落、万が一倒産すれば価値がゼロになってしまう可能性もあるでしょう。その点、空売りを使うことで、そうした大損のリスクを回避しながら、個別銘柄の利益を得ることが可能です。

短期間で大きな利益を得ることも可能

また、空売りは短期的な取引に向いているとも言われます。株価が下落すると投資家の心理は不安になることが多く、短期的に大きく価格が下がりやすいとされています。そのため、空売りによって短期間で大きな利益を得ることもでき、デイトレード、スキャルピング取引等の短期取引に向いていると言えるのです。

空売りのデメリット

空売りのデメリット

信用売りでは予想を超えた損失が発生する可能性も

下落相場でも利益を得ることができるのが空売りの特徴ですが、その反面もっとも注意しなければならないのが、株価が上昇した場合です。空売りにおいて株価が上昇した場合は損失となりますが、株価の上昇は理論上で青天井。現物買いの場合、仮にその株価がゼロになったとしても株価以上に損失が発生することはありません。しかし、信用売りでは損失の金額も青天井になり、予想を超えた損失が発生する可能性もあるのです。

例えば少し極端な例を挙げると、現在の株価が50万円の株式を空売りし、その株式が予想に大きく反して10倍に成長し、500万円になったとしましょう。証券会社には500万円になった株式を買い戻して返却する必要があり、450万円の損失が発生することになります。株価が上昇すれば損失もさらに大きくなりますので、こういった可能性は十分に理解しておかなくてはいけません。

安易に空売りをすると、損失が膨らんでしまう可能性も

このほかにも、よくありがちな失敗例は、「これ以上株価は上がらないだろう」と安易に考えて空売りしてしまうこと。安易に空売りをすると、どこまでも青天井に損失が膨らんでしまい、損切するタイミングも見失いやすくなります。初心者が特に気をつけなければならない点は、この損切のタイミングです。待っていればまた株価が下がり損失が少なくなると思い、タイミングを待っているうちに損切するタイミングを見失う。その結果、損失が膨らみ続けてしまいます。さらに、追加保証金(※)が発生するまで損失が膨らんでしまう場合もあるでしょう。

(※)追加保証金
追加保証金とは、一定以上の損失が発生した場合に追加で差し入れを求められる保証金のこと。追加保証金を支払えないと、損失を抱えたまま強制的に決済されて損失が確定し、不足分の委託保証金を支払う必要もあります。そのため、「これ以上株価は上がらないだろう」などと安易に判断をしないこと。そして、損失が発生した場合の損切のタイミングをあらかじめ決めておくことがとても重要です。
あまり頻繁にあることではありませんが、空売りを続けていると、こういった青天井に価格が上がり続けるような相場に遭遇する場合があります。その際、損切するラインを決めておかないと、このような損失を抱えてしまいますので注意してください。

また、空売りした建玉を持っていると貸株料が掛かるため、それらのコストも含めてどの程度の利益になるのかを考えることが大切です。特に現物株式のリスクヘッジのために使う場合、実質的にリスクゼロで株式の配当や株主優待を受けることができますが、貸株料を支払ってもそれ以上にその株式を保有することで利益を得られるかを考えるのです。

まとめ

まとめ

本記事では、空売りについて詳しく解説しました。空売りは下降トレンドでも利益を得ることができ、保有する株式のリスクヘッジにも活用できるため、投資の幅が大きく広がり新たな投資の楽しさを得ることもできるでしょう。

ただし空売りにもデメリットがあります。株価が青天井に上がる可能性があることから、損失も同じく青天井に大きくなってしまうことがあるのです。この点については、十分に注意して取引をする必要があります。初心者にとって、損切のタイミングを判断するのは難しいものです。空売りを行う場合にはこういった特徴を理解し、損失が発生した場合にはどこで損切をするか等、あらかじめ戦略を考えたうえで行いましょう。

また、実質リスクゼロで個別銘柄に投資して、株主優待や配当を受け取りたい方も空売りを活用することもできます。単に空売りで利益を得たいという場合のみでなく、株式投資のリスクをうまく抑えるための戦略の一つとして、考えてみても良いのではないでしょうか。ここでご紹介した空売りの特徴やメリット、デメリットを十分に理解し、目的に合わせて活用してみてください。

監修者プロフィール

小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)

日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表

<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。