iDeCoの税金メリットとは?

iDeCo(個人型確定拠出年金)の大きな特徴である税金優遇について、具体的に3つのメリットをご説明します。

iDeCoの税金メリットとは?

iDeCoとは

iDeCoとは

iDeCoは公的年金にプラスして給付を受けられる私的年金制度の1つで、国民年金基金連合会が実施主体となります。「将来何が起こるかわからない…」と、公的年金だけでは老後が不安だと考えて加入される方が少なくありません。

iDeCoは税制上のメリットが大きく、その恩恵を受けながら老後資産を形成できる方法です。60歳になるまで途中で引き出すことができないため、確実に老後資金として活用することができます。

公的年金である国民年金や厚生年金は誰でも自由に加入できるわけではなく、要件に合えば強制的に加入となります。しかし、iDeCoは加入したい方だけが加入する任意の制度です。iDeCoに加入を希望する方は自分で金融機関を選択して申し込み、毎月の掛金の額を決めて拠出し、その掛金をどの金融商品で運用するのか決めます。そして、原則として60歳以降に、自分で積み立てた掛金合計額と運用益を受け取ることができるのです。

ただし、運用益の結果は自己責任で、掛金合計額より減ってしまう場合もあります。また、どのように受け取るかは自分で選ぶことが可能です。

iDeCoの税制優遇

iDeCoの税制優遇

①掛金は全額所得控除

iDeCoの掛金は全額所得控除の対象とされるので、課税所得を減らすことができます。その結果、当年分の所得税と翌年分の住民税が軽減されます。これは、iDeCoのもっとも大きなメリットです。所得控除の実例を、国民年金基金連合会のシミュレーションから見てみましょう。

【年収400万円、年齢23歳、掛金毎月2万円で60歳まで掛金を積み立てた場合】

・積立総額:8,880,000円

・税額軽減額:1,332,000円

(所得税を5%、住民税を10%とする)

▼出典:国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」簡単税制優遇シミュレーション
https://www.iDeCo-koushiki.jp/simulation/

ご自身の年収や年齢、掛金を入力することで、簡単にシミュレーションできます。iDeCoを検討される場合は、一度試してみるとよいでしょう。このシミュレーションは年収が変わらないと仮定していますが、年収はアップしていく場合が多いのが実際です。その場合は所得税の税率もアップしますので(住民税は変わりません)、税額軽減額はさらに大きくなります。

次に所得控除について、年収の違いでどれくらい税額軽減の効果があるのか単年度で試算してみましょう。

【課税所得金額が190万円(所得税5%、住民税10%)で月2万円の掛金】

・積立総額:2万円×12カ月=24万円

・税額軽減額:24万円×15%=3.6万円

課税所得金額が300万円(所得税10%、住民税10%)で月2万円の掛金】

・積立総額:2万円×12カ月=24万円

・税額軽減額:24万円×20%=4.8万円

掛金が変わらないとしても、年収が増えれば税額軽減の効果が大きくなっていきます。この税金の軽減額を利息と考えると、こんなに高利回りの利息がつく金融商品は他にないでしょう。

このように、iDeCoは税制が優遇されていますが、そのためには年末調整か確定申告を行う必要があります。

iDeCoの掛金に対する所得控除を受けるための「小規模企業共済等掛金払込証明書」が、毎年10月から11月頃に国民年金基金連合会から届きます。会社員や公務員等の方は、その原本を勤務先に提出することにより年末調整で所得税が再計算されて税金が還付されます。

また、自営業者やフリーランスで毎年確定申告されている方は、「払込証明書」の金額を小規模企業共済等掛金控除の欄に記入して所得から差し引きます。

なお、年末調整に書類を出し忘れてしまった場合は、源泉徴収票を添付して税務署で税金還付の申告が必要です。還付の申告は確定申告の時期でなくてもできますので、時間があるときに行うとよいでしょう。

②利息・配当・売却益などの運用益は全額非課税

②利息・配当・売却益などの運用益は全額非課税

投資信託や預金等で運用して利息や分配金、運用益が出た場合には、原則税金が20.315%かかりますが、iDeCoで運用すればこれらが非課税となります。例えば、投資信託の分配金が毎年1万円だとすると、本来は税金が引かれて7,961円となってしまいます。しかし、iDeCoの場合、1万円がそのまま掛金に上乗せされて運用を続けることができるのです。

実は、この差が長期運用では重要です。iDeCoは老後資金の準備であるため、原則60歳まで引き出すことができません。そのため長期での運用となり、この非課税の効果が大きくなるのです。先ほどの例で言うと、1万円の分配金に対して約2,000円の税金が引かれずそのまま運用されるため、2,000円に対して本来かかる税金にも運用の結果分配金がつきます。

さらに長期ですので、非課税分だけで2,000円×30年(30年iDeCoに加入したと仮定)=6万円となり、この6万円は非課税の恩恵で増えた資産です。

この計算は1万円の分配金に対してであり、実際は非課税分だけでなく積立資産も増えていきます。そのため、現実的にはもっと効果があるでしょう。これは投信信託の分配金だけに限らず、預金の利息や運用益にも当てはまります。特に運用益は、金額が大きいと効果も大きくなります。

例)50万円の投資信託が100万円になったので売却した場合の税額

100万円−50万円=50万円

50万円×20.315%=101,575円

本来であれば約10万円かかる税金が非課税となります。運用益が非課税となることも大きな魅力でしょう。事実、iDeCoで選択する投資信託を、あえてリスクが高い商品で運用するケースも多いようです。

③年金または一時金で受け取る時も各種控除が適用

③年金または一時金で受け取る時も各種控除が適用

60歳以降、iDeCoで積み立てた資産は年金か一時金、または年金と一時金の併用で受け取ることが可能です。年金で受け取る場合は「公的年金控除」、一時金で受け取る場合は「退職所得控除」が適用され、税金がかからないこともあります。

iDeCoと同じ私的年金に保険会社の「個人年金」がありますが、この場合は「公的年金控除」「退職所得控除」どちらの対象にもなりません。雑所得としてそれまで支払った保険料の一部が控除されるだけであり、これが私的年金ならiDeCoと言われる所以の1つです。

60歳以降、iDeCoを一時金で受け取った場合は「退職所得控除」の対象となります。退職所得控除の金額は勤続年数(確定拠出年金では掛金を拠出した期間)に連動しているので、勤続年数が長ければ長いほど控除額が多くなります。具体的に、どれほど控除されるのか見てみましょう。

【退職所等控除】

【退職所等控除】

例)勤続40年の場合の退職所得控除

800万円+70万円×(40年−20年)=2,200万円

この場合、2,200万円までは税金はかからないことになります。

例)勤続40年の場合で退職金2,000万円、iDeCoの一時金300万円

上記のように2,200万円まで税金がかかりませんが、退職金とiDeCoを合わせると2,300万円になります。

2,300万円−2,200万円=100万円

ここからさらに2分の1の金額に課税されますので、

100万円÷1/2=50万円

50万円に対して税金がかかります。

退職と同時にiDeCoも一時金で引き出すと、退職金と合算されてしまいますので注意してください。退職金がいくら支給されるか事前に確認し、最適な受け取り方や受け取るタイミングを考えるとよいでしょう。年金でもらう場合は雑所得となり、他の公的年金などの収入の合算額に応じて「公的年金控除」の対象となります。

【公的年金控除】

【公的年金控除】

公的年金は原則65歳からの支給となり、一定の企業年金(厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金)とiDeCoを合算して110万円までは非課税となります。ただし、現実的に65歳からの公的年金の平均受給額は、厚生労働省の発表によると令和元年度で国民年金と厚生年金を合わせて約20万円です。公的年金控除があっても税金がかからないということは難しいのですが、確実に税金は軽減されるでしょう。

では、公的年金等の雑所得に対して控除がある場合、税金がかかる所得はいくらになるのでしょうか。以下にまとめましたので参考にご覧ください。

公的年金の収入金額と公的年金等にかかる雑所得の金額

出典:高齢者と税(年金と税)|国税庁 (nta.go.jp)

例)65歳で退職して同時に公的年金を毎月20万円受給

240万円−110万円=130万円 

所得は130万円となり、そこから社会保険料や基礎控除等所得控除を差し引いて課税所得を算出し税金が計算されます。

例)上記の公的年金の他に月5万円 iDeCoから年金として受給

240万円+60万円=300万円 

300万円−110万円=190万円

iDeCoの分だけ課税所得が高くなり、税金も多くなります。iDeCoを年金としてもらう場合は年金額をいくらにするのか、または何年もらうのかによって受給する金額や年数は異なりますが、資産がなくなるまでもらい続けることになります。途中で死亡した場合は、遺族に残りの資産が支払われ相続財産として計算されるのです。

ただし、年金としてもらう場合は、掛金を拠出していないのに運用は続けています。そのため、金融機関に毎月管理料を支払わなくてはいけません。さらに年金の振込手数料も毎回かかりますので、年金にする場合はよく考えることが大切です。

まとめ

まとめ

iDeCo は3つの税制優遇というメリットを享受しながら、老後資金を積み立てることのできる制度です。老後資金をどのように貯めようかと悩んでいるのなら、このメリットは見逃せないでしょう。

ただし、いくら税制優遇のメリットがあるからといって、無理してまで行う必要はありません。60歳まで引き出せないため、急にお金が必要となった場合に困ることがあるかもしれません。そのため、毎月の掛金は生活を圧迫しない範囲で決めましょう。また、税制優遇の制度をよく理解した上で、iDeCoで老後資金を作るために掛金はいくらにするのかよく考えることも重要です。

監修者プロフィール

菅田 芳恵(スガタ ヨシエ)
グッドライフ設計塾代表。1級FP技能士、CFP、社会保険労務士、DCプランナー、証券外務員1種、キャリアコンサルタント、産業カウンセラーなど。

<プロフィール>
大学卒業後は証券会社、銀行、生保、コンサルタント会社に勤務。税務・保険・年金相談の窓口を務める他、各種セミナーの企画や講師なども担う。その後、2005年に独立開業し、現在はコンサルティングや相談対応、セミナー講師、執筆、カウンセリングと多方面に活動。得意な分野は、ライフプランと社会保険。年間100回以上のペースで講演活動を行うほか、商工会議所登録年金講師や日本年金機構年金相談員、あいち産業振興機構経営相談員、名古屋市中小企業振興センター経営相談員などとしても専門性を活かし活動している。ライフプランや資産運用等に関する寄稿実績も多数。