信用取引ってなに?

株式投資方法の一つ信用取引とは何か?この記事ではその仕組やメリット・デメリット、リスクを解説しています。

信用取引とは何なのか

信用取引ってなに?

信用取引は投資家が現金や株式、国債、地方債などの担保を証券会社に預け(委託保証金という)、現金や株式を借りて売買する株式投資です。簡単にいうと、証券会社からお金を借りて元手以上の投資をすることといえるでしょう。お金を借りることで金利などの費用が発生しますが、その結果、レバレッジ効果により担保となる委託保証金以上の取引が可能になります。そのため、元手を投資して得られるリターンよりも大きなリターンを得ることもできるのです。
しかしその反面、損失が発生した場合には当然ながら、自分が投資した金額以上の損失が発生する場合があります。この点については、あらかじめ注意しておきましょう。

信用取引の仕組み

信用取引の仕組み

信用取引には「信用買い」と「信用売り」があります。ここで、それぞれの仕組みと違いを見ていきましょう。

信用買い

信用買いは「空買い」とも呼ばれ、株式の信用取引の買いのことです。投資家が証券会社に担保として預けた委託保証金を元に、証券会社から資金を借りて株式を買うことをいいます。これから株価が上がることを期待して投資家が市場から現在の株価で株式を買い、将来値上がりした時に株式を市場に売却。その利益で、証券会社から借りた資金と利息を返済する取引です。これによって得られる利益も大きくなり、その反面価格が下落した場合には損失も大きくなります。

委託保証金は最低30万円必要になり、これが証券会社からお金や株式を借りるいわば担保となります。また、証券会社に預ける担保としては現金のみでなく、株式、投資信託、ETF等を担保として差し入れることも可能です。これを代用有価証券といい、評価額に一定の割合を乗じた金額が代用有価証券としての価値になり、株式を代用有価証券として差し入れる場合、評価額の8割が委託証拠金としての価値を持つと評価されます。

信用売り

信用売りは信用買いの反対に「空売り」とも呼ばれ、株式の信用取引の売りのことです。信用買いと同じく投資家が証券会社に担保として委託保証金を預け、信用売りの場合は証券会社から株式を借りて売却します。その後、借りた株式を市場から買い戻すことで差額の利益を狙い、買い戻した株式は証券会社に返すことになります。

信用買いとは逆に、これから株価が下がることを期待して投資家が証券会社から株式を借りて現在の株価で市場に売り、将来値下がりした株式を市場から買い戻し証券会社に返します。株式を売却した利益から、株式を借りた賃借料と株式を買い戻す価格を差し引いて利益を得る取引です。株価が下落する局面でも空売りによって利益を得ることができますが、その反面、株価が上昇すると損失になります。

一般信用取引と制度信用取引

一般信用取引と制度信用取引

信用取引には、一般信用取引と制度信用取引があります。大まかにいうと、投資家にとって制度信用取引の方が信用買いの際には低い金利で資金を借りることができ、また信用売りの際には安い貸株料で借りることができるという点でメリットがあるでしょう。その反面、借りた資金を6カ月以内に返済しないといけないという制限があります。

一般信用取引では制度信用取引に比べ資金や株式を借りるコストは高くなりますが、資金は6カ月を超えて借りることが可能。期限は証券会社によって異なりますが、3年など証券会社が定めた期間で返済します。

また、制度信用取引で信用売りを行う際には、逆日歩というコストが発生する場合がある点も覚えておきましょう。多くの投資家が信用売りを行うと証券会社の株式が不足することがあり、その場合機関投資家などから証券会社が株式を借りることになります。その際に、機関投資家などに払う手数料が逆日歩と呼ばれるものです。なお、逆日歩は制度信用取引でのみ発生し、一般信用取引では発生しません。

一般信用取引と制度信用取引にはこのようなメリットとデメリットがありますので、その特徴をよく理解し活用することも大切です。

信用取引のメリット

<まとまった資金がなくても取引できる>
まとまった資金がなくても証券会社からお金や株式を借りて、元手より大きな取引ができる点が信用取引のメリットです。例えば現物取引(通常の株式投資)なら、50万円持っている時は50万円分までの株式しか買うことができません。しかし信用取引を行うことで、約3倍にもおよぶ150万円分の取引を行うことができます。これをレバレッジ効果といいます。仮に50万円の株価が70万円に値上がりした場合は20万円の利益になりますが、信用取引で150万円分の取引を行えば利益は3倍の60万円となります。証券会社から借りたお金の利子をこの中から払う必要がありますが、資金を有効に使って大きな利益を得ることが期待できるでしょう。

また、信用売りの場合は、仮にA社の株式を、株価100円の時に証券会社から1000株借り、それをそのまま売却すると10万円になります。そして、その後に株価が90円まで下がったとすると、売った1000株を買い戻す時の価格は9万円です。それを証券会社に返します。すると、売却して得られた10万円から証券会社に返す株式の価格9万円を差し引き、1万円の利益が残ることになるわけです。

通常、株価が安い時に買い高い時に売ることで利益を得て、株価が下落する局面では利益を得ることはできません。しかし信用売りを行うことで、このような下落相場であっても利益を得ることができるのは信用売りのメリットといえるでしょう。

<同じ保証金で1日に何度も取引することが可能>
信用取引のメリットの1つに、回転売買ができることが挙げられます。回転売買とは、同じ資金で何回も取引を繰り返すこと。個別銘柄A社の株式を100万円で買い、株価が上がって、その日のうちに110万円で売ったとします。そして同じ日に「まだA社の株価が上がりそう」と思い、再び売却したお金でA社の株式を買いたいと思っても買うことができません。また、A社の株式を買うにはA社の株式を買った100万円のほかに新たに購入資金が必要ですが、手元に資金がなければ買えないのが通常です。
しかし信用取引を行うことで、一度A社の株を購入し、売却して得たお金で再びA社の株をその日のうちに繰り返し購入することができます。このように資金を効率よく使って売却して得た資金で、1日の価格の変動を利用し再び投資することができるのも信用取引のメリットです。

<リスクヘッジの手段としても活用できる>
ハイリスク&ハイリターンな取引の手段として利用されることが多い信用取引。しかしそのほかに、現物の株式投資のリスクヘッジの手段としても利用することができます。例えば株式の現物を購入し、その株価の下落に備え、同じ株式の空売りを同時に行うとします。これによって株価が下落した際には、株式の価格が下落して損失が発生しても、空売りして得られる利益がありますので、その分で損失を相殺し抑えられます。
このように信用取引は、株式投資の損失の可能性を軽減するために活用することもできるのです。単にハイリスク&ハイリターンな取引だけでなく、リスクヘッジに使えることは1つのメリットといえるでしょう。

信用取引のデメリットとリスク

<レバレッジ効果により損失が大きくなる>
手持ち資金以上の取引に参加でき、レバレッジ効果で利益を大きくすることができる信用取引。しかし当然ながら、その分だけ損失の可能性も大きくなり、これが手持ち資金を超えてしまうこともあります。例えば手持ち資金50万円の状態で、信用取引で3倍となる150万円分の株式を購入した場合、50万円の株価が30万円に下落すれば20万円の損失になります。しかし、信用取引で150万円分を購入していれば60万円の損失が発生することになります。このように、手持ちの資金を超える損失が発生する場合もありますので注意が必要です。

<追加保証金が必要になることがある>
損失額が規定のラインを超えると、追加で保証金を差し入れなければいけない可能性があります。信用取引は差し出した保証金により、証券会社からお金を借りて取引する制度です。信用取引で購入した株式の価格が下落して含み損が発生した場合には、その含み損の分は担保として預けたお金から差し引かれることになります。しかし、含み損が一定基準を下回ると、追加で保証金を差し入れなければならなくなることがあるのです。これは、一定の保証金の準備率を維持するための仕組みです。証券会社によってその基準は異なりますが、一般的に取引金額の30%を下回った場合に保証金が必要になります。

例えば手持ち資金50万円で150万円分の株式を購入した場合、150万円で買った株式が20万円値下がりして130万円に下がると含み損は20万円です。この時、保証金の50万円から含み損分の20万円が引かれて保証金は30万円となりますが、取引金額150万円の30%に当たる45万円を下回っているため、15万円の追加保証金が必要になるというわけです。
期日までに追加保証金を入金できないと、購入した株式を含み損のまま強制的に売却しなければならなくなります。つまり、その時点で手持ち資金を超えた損失が発生することになるのです。信用取引においてこの追加保証金を支払うことになる可能性があることは、十分に理解・注意しておかなければなりません。

また、保証金の代わりに株式や債券、投資信託などの代用有価証券を用いて信用取引を行う場合、この代用有価証券も価格の変動があります。それぞれ代用有価証券としての価値を評価する基準が、証券会社により定められていることも覚えておいてください。代用有価証券の価格の変動によって評価額が下がり、取引金額の30%を下回った場合にも追加保証金が必要です。この時、代用有価証券としての評価額は株式や債券などの時価額に一定の料率を乗じて評価され、評価の基準は証券会社によって異なりますが時価額よりも低く評価されることになります。

そして、代用有価証券によって代用有価証券と同じ銘柄を取引することを「二階建ての取引」といいます。この場合、信用買いによる評価額の下落が発生すれば、代用有価証券の下落も同時に起きることになるでしょう。そのため、急激に保証金の準備率が低下してしまい、追加保証金が必要になる可能性も高くなります。代用有価証券を用いて信用取引を行う場合には、こういった可能性にも注意が必要です。

<信用売りの場合は無制限に損失が発生する可能性がある>
空売りでは今後の株価の下落局面でも利益を得られる反面、予想に反して株価が上昇した場合には証券会社に株式を返還する際、株価が上限なく上がる可能性があります。そうなれば、損失も無限大に大きくなっていってしまう点に注意しましょう。株価が下落する際に0を超えて下がることはありませんが、株価の上昇は青天井です。
例えば少し極端な例を挙げると、現在の株価50万円の株式を空売りし、その株式が予想に大きく反して10倍に成長して500万円になった場合。証券会社には500万円になった株式を買い戻して返却する必要があり、450万円の損失が発生することになるのです。株価が上昇すれば損失もさらに大きくなりますので、こういった可能性は十分に理解しておかなくてはいけません。

まとめ

まとめ

信用取引はレバレッジの効果により大きな利益を得ることができ、空売りを行うことで株価の下落局面でも利益を得ることができます。また、少ない資金で大きな利益を期待できるほか、投資の自由度が高くなるといったメリットが考えられるでしょう。しかしその反面、損失もレバレッジの効果の分だけ大きくなる可能性があります。空売りでは予想に反して株価が上昇した場合、損失が無制限に膨らんでしまうかもしれません。また、追加保証金が必要になることがあるなどデメリットもあるので、十分に理解しておくことが大切です。

株価がどのように変動するのかをある程度は経験し、その値動きをチャートなどで読み取ることなどに慣れておかないと、予想をはるかに超える値動きで大きな損失が発生してしまう可能性もあります。特に追加保証金が必要になった際、期日までに追加保証金を入金しないと強制的に株式を売却しなければなりません。そのため信用取引は、初心者のうちはできるだけ避けた方が無難といえます。

また、信用取引はリスクヘッジとしても利用することが可能です。目的に応じてさまざまな取引が可能であり、上手に活用すれば投資の幅が広がるでしょう。まずはその仕組みやメリットとデメリット、考えられるリスクを十分に理解してから行うことが重要です。

監修者プロフィール

小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)
日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表

<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。